「呼吸することが苦しい」という症状(呼吸苦、呼吸困難感)は身体的な疾患でも精神的な疾患でもどちらでも生じうる症状です。
1.身体的疾患
呼吸が苦しくてゼーゼーしたりハァハァしたりすることを喘鳴(ぜんめい)といいます。
息を吸うときに喘鳴があるのか、息を吐くときに喘鳴があるのかで問題が生じている部位・原因疾患をおおまかに予想することもできます。
喘鳴によって肺における酸素・二酸化炭素の交換ができず、血液中に十分な量の酸素が取り込まれなくなると呼吸不全という危険な状態に陥ります。
<息を吐くときの喘鳴>
息を吐くときに生じる喘鳴は気管支から末梢の肺に原因が生じている可能性が高いです。
おもな原因疾患は慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息、喘息性気管支炎、心臓喘息などがあります。慢性閉塞性肺疾患(COPD)についてはそちらのページをご覧ください。
気管支喘息では気道が狭くなってしまうために笛を吹いたときのような「ピー、ピー」という呼吸音を生じます。
症状がないときにも日ごろから予防薬を使用しておくことが重要です。発作が生じた場合には重症化する場合があるため、緊急対応が可能な病院での治療が必要となります。
喘息性気管支炎は、細菌やウイルスによる気管支炎を発症したさいに痰のせいで喘息のような呼吸音が聴こえる状態です。気管支喘息と異なり、呼吸困難になることはまれです。治療は気管支炎の治療に去痰剤や場合によっては呼吸を楽にするお薬を併用します。
心臓喘息とは急性心不全の症状のひとつで、ゼーゼーと咳き込み呼吸が苦しくなります。気管支喘息と見分けがむずかしい場合もあります。原因は急性心不全ですので、すぐに緊急対応ができる病院での専門的な治療が必要です。
<息を吸うときの喘鳴>
息を吸うときに生じる喘鳴は気管支よりも鼻のほうに原因がある可能性があります。
百日咳や喉頭炎、異物誤嚥など小児科領域の疾患がおおくあります。成人の場合には声帯の疾患や喉頭の腫瘍、アレルギーによる気道浮腫などがおもな原因です。
<検査>
・画像検査 … 胸部レントゲンやCTの所見から原因を特定できる場合があります。
・血液検査 … 体内が酸素不足で呼吸不全におちいっていないか確認するために動脈採血をする
場合もあります。
これらのほかに細菌感染症であれば喀痰培養や血液培養などの細菌学的検査、慢性疾患であれば呼吸機能検査、悪性疾患の場合には気管支鏡検査など、疾患に応じて検査がおこなわれます。
原因の特定と同時に呼吸を楽にするための措置を並行します。
<治療>
まずは呼吸を楽にしてきちんと酸素を取りこめるようにすることが大切です。
酸素投与や対症療法的に気道を広げる薬の投与などをおこないます。痰が多く呼吸に支障をきたす場合には去痰剤も併用します。
心臓喘息の場合、原因である心不全の治療が優先されます。
喘鳴症状がある程度コントロールできれば原因疾患に応じた治療がおこなわれます。
気管支喘息では症状が治まっている時期にも予防のための吸入薬を使用することが重要です。これはステロイドおよび交感神経刺激薬ですが、予防のための吸入薬と発作時に使用する吸入薬があります。
「安静にしていても呼吸が苦しい」「少し動いただけで息がきれてしまう」「夜、横になって眠れない」こんなにも苦しい場合には在宅酸素療法(ざいたくさんそりょうほう)という手段もあります。これは酸素吸入器をご自宅でも使用することで、呼吸の負担を軽減する方法です。当院でもお取り扱いしております。
救急治療が必要な状況では西洋医学による治療が優れていますが、状態が安定した場合には漢方薬が有効な場面もあります。
2.精神的疾患
精神的な疾患による呼吸の苦しさは「なんとなく胸が詰まって息がしづらい」という程度から「呼吸が苦しくてこのまま死んでしまいそう」という程度までさまざまですが、実際には呼吸器官に異常が生じているわけではなく、あくまでも自覚的に感じている症状です。
呼吸苦・呼吸困難感を自覚する精神的疾患にはうつ病、適応障害、全般性不安障害、身体表現性障害、パニック障害・パニック発作、過換気症候群などがあります。
原因疾患に対する治療が必要ですが、多くは安全で安心できる環境を用意して落ち着いて呼吸をすることで症状の軽減ができます。
漢方では「なんとなく胸が詰まって息がしづらい」という症状は柴胡(さいこ)という生薬の目安となります。