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感染症から身体を守る「自然免疫」とは?

2026/9/30
インフルエンザやCOVID-19などのウイルス感染症。
私たちの身体にウイルスが侵入したとき、最初に働く免疫は何でしょうか?

「抗体」を思い浮かべる方が多いかもしれません。

もちろん抗体は重要です。
しかし、ウイルスが身体に入ってから抗体などによる獲得免疫が本格的に働くまで、身体が無防備になっているわけではありません。

その最前線で働いているのが、「自然免疫」です。

今回は、インフルエンザやCOVID-19と自然免疫との関係、そして当院で自由診療として取り扱っている「アンサー注射(Z-100)」について、現在分かっている研究結果と、まだ分かっていないことを整理してみましょう。

 ■私たちには「二段構え」の免疫システムがあります

人間の免疫システムは、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けて考えることができます。

自然免疫は、身体に侵入した病原体を素早く認識して反応する、いわば「初動部隊」です。マクロファージ、樹状細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞などが関係します。
一方、獲得免疫ではT細胞やB細胞などが働き、特定の病原体に対する抗体や免疫記憶を形成します。

つまりウイルス感染では、「自然免疫による初期防御→獲得免疫による、より特異的な防御」という連携が起こります。

 ■インフルエンザ感染の最前線でも自然免疫が働く

インフルエンザウイルスが気道の細胞へ感染すると、身体はウイルス由来のRNAなどを感知します。
そこで重要になるのが、「RIG-I」「TLR3」「TLR7」などの「パターン認識受容体」です。
これらはいわば、「侵入者を見つけるセンサー」です。

ウイルスを感知すると、Ⅰ型・Ⅲ型インターフェロンなどを介した抗ウイルス反応が誘導されます。
さらにマクロファージやNK細胞なども働き、感染細胞の処理や、その後の獲得免疫の形成につながっていきます。

Nature Reviews Immunologyに掲載された総説でも、こうした自然免疫系がインフルエンザ感染初期の防御に重要であることが詳しくまとめられています。

 ■COVID-19でも「最初の自然免疫」が重要

SARS-CoV-2でも基本的な考え方は共通しています。
ウイルスが侵入すると、自然免疫系がウイルスを認識し、インターフェロンを中心とする抗ウイルス反応を開始します。
COVID-19研究で興味深いのは、「免疫は強ければ強いほどよい」わけではないということです。

感染初期に適切な抗ウイルス反応が起こることが重要である一方、時期や程度が不適切な炎症反応は、むしろ組織障害に関係する可能性があります。COVID-19の重症化とⅠ型インターフェロン応答の異常との関係も数多く研究されています。

したがって、「免疫力を上げればよい」という単純な表現より、「感染初期に適切な自然免疫応答が働くことが重要」と考える方が、現在の免疫学には近いでしょう。

 ■では「アンサー注射」とは?

アンサー皮下注20μgは、「ヒト型結核菌青山B株の熱水抽出物(Z-100)」を成分とする医療用医薬品です。
結核菌そのものを注射するわけではありません。

日本では現在、「放射線療法による白血球減少症」について承認されています。したがって、インフルエンザやCOVID-19の予防は承認された効能ではありません。ここは最初に明確にしておく必要があります。

 ■Z-100は自然免疫にどのように作用する?

ここからが興味深いところです。
Z-100については、免疫系に対する作用を調べた基礎研究が行われています。2015年にMolecular Immunologyに報告された研究では、Z-100に含まれる成分が、NOD2という自然免疫に関係するセンサーを介して、マクロファージのNF-κBシグナルに作用する可能性が示されました。NOD2は細菌由来のペプチドグリカン成分などを認識する、自然免疫系のパターン認識受容体の一つです。

 ■ヒト免疫細胞でも研究されています

さらに2022年には、Z-100についてマウス細胞だけでなく、ヒトCD14陽性細胞を用いた研究も報告されています。
Z-100刺激によって、IL-12p40、TNF-α、IL-1βなどの免疫調節に関係するサイトカイン産生の増加が観察されました。特にIL-12p40については、Z-100に含まれるペプチドグリカン様成分がNOD2を介して作用する可能性が示されています。

つまりZ-100は少なくとも基礎研究レベルでは、自然免疫系、とりわけマクロファージ系の反応を調節する作用を持つ可能性があります。

 ■NK細胞との関係は?

Z-100については動物実験で、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、NK細胞、NKT細胞などの変化を調べた研究もあります。NK細胞は「Natural Killer」という名前の通り、自然免疫に関係する重要な細胞です。ウイルスに感染した細胞などを認識して排除する働きを持っています。インフルエンザ感染においても、NK細胞は感染細胞の排除などに関与することが知られています。

したがって、マクロファージ、サイトカイン、NK細胞などを介した自然免疫ネットワークは、ウイルス感染を考えるうえで重要な研究領域です。

 ■Z-100には「抗ウイルス作用」の研究もある?

実はあります。
2004年にJournal of General Virologyに発表された研究では、ヒト単球由来マクロファージを用いた実験で、Z-100がHIV-1の複製を抑制しました。この実験ではZ-100によるIFN-β産生などが関係する可能性が報告されています。

さらに1994年には、熱傷によって免疫機能が低下したマウスを用いた実験で、Z-100投与によって単純ヘルペスウイルス感染に対する抵抗性が改善したことも報告されています。

つまり、Z-100とウイルス感染防御との関連を示唆する基礎研究・動物研究は存在します。

 ■ではアンサー注射でインフルエンザやCOVID-19を予防できる?

ここが最も重要なところです。
現時点では、アンサー注射によってインフルエンザやCOVID-19の発症が減少することを証明した、十分なヒト臨床試験は確認されていません。したがって、「アンサー注射を打てばインフルエンザにならない」「COVID-19を予防できる」とは言えません。

Z-100について分かっていることは、自然免疫に関係する細胞・シグナル・サイトカインへ作用することを示す基礎研究がある、ということです。

一方、その免疫調節作用が実際にインフルエンザやCOVID-19の発症予防につながるか、については、別の臨床研究が必要です。「生物学的に考えられること」と「患者さんで効果が証明されたこと」は分けて考えなければなりません。

 ■「免疫力アップ」という言葉にも注意

健康情報では、「免疫力を高める」という表現をよく目にします。
しかし医学的には、免疫は単純に強ければよいものではありません。
感染初期には適切な抗ウイルス応答が必要ですが、過剰な炎症反応は身体を傷つけることもあります。

大切なのは、免疫を無制限に強くすることではなく、必要なときに適切な免疫反応が起こることです。
その意味ではアンサー注射についても、「免疫力を強力にアップさせる注射」と表現するより、「自然免疫系に対する免疫調節作用が基礎研究で報告されている薬剤」と表現する方が正確でしょう。

 ■感染症対策の基本を忘れないでください

インフルエンザやCOVID-19対策では、手洗い・換気・十分な睡眠・栄養・基礎疾患の適切な管理・必要に応じたワクチン接種など、確立した予防策を基本として考えることが大切です。
アンサー注射を行ったから、こうした対策が不要になるわけではありません。

 ■「自然免疫」という身体本来の防御システムを考える

私たちの身体には、病原体が侵入した瞬間から働き始める精巧な防御システムがあります。
その一つが、自然免疫です。インフルエンザでもCOVID-19でも、自然免疫は感染初期の重要な防御機構です。

そしてアンサー(Z-100)については、NOD2、マクロファージ、IL-12、インターフェロン、NK細胞など、自然免疫に関係するさまざまな研究が行われてきました。

だからこそ、「アンサー注射がインフルエンザやCOVID-19を予防する」と結論づけるのではなく、自然免疫を調節する薬剤が呼吸器ウイルス感染防御にどのような意味を持つのか、という問いは、非常に興味深い研究テーマだと思います。

分かっていること。
まだ分かっていないこと。
その両方をきちんと区別しながら、新しい医学の可能性を考えていくことが大切です。

いつの日も こころ楽しく すこやかに


【主な参考文献】
・Horii T, et al. Peptidoglycan-Like Components in Z-100, Extracted from Mycobacterium tuberculosis Strain Aoyama B, Increase IL-12p40 via NOD2. Journal of Immunology Research. 2022.
・Katsunuma K, et al. Z-100, extracted from Mycobacterium tuberculosis strain Aoyama B, promotes TNF-α production via NOD2-dependent NF-κB activation in RAW264.7 cells. Molecular Immunology. 2015.
・Emori Y, et al. Inhibition of human immunodeficiency virus type 1 replication by Z-100, an immunomodulator extracted from human-type tubercle bacilli, in macrophages. Journal of General Virology. 2004.
・Kobayashi M, et al. Z-100, a lipid-arabinomannan extracted from Mycobacterium tuberculosis, improves the resistance of thermally injured mice to herpes virus infections. Immunology Letters. 1994.
・Iwasaki A, Pillai PS. Innate immunity to influenza virus infection. Nature Reviews Immunology. 2014.
・Diamond MS, Kanneganti TD. Innate immunity: the first line of defense against SARS-CoV-2. Nature Immunology. 2022. 

肥満治療で心筋梗塞・脳卒中まで減るのか?

2026/9/28
「健康のために少し痩せましょう」
健康診断などで、こんなことを言われた経験はありませんか?
確かに体重を減らせば、血圧や血糖値、中性脂肪などが改善することがあります。

でも、ここで一つ疑問が出てきます。
「結局、痩せることで本当に病気は減るの?」

血圧や血糖値が少し良くなるだけではなく、心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気そのものを減らすことができるのでしょうか?
実は近年、この疑問に対する非常に興味深い研究結果が報告されています。

今回は「体重を減らす本当の意味」について、心臓や血管という視点から考えてみましょう。

■肥満は「見た目」だけの問題ではありません

肥満、とくに内臓脂肪が増えてくると、身体の中ではさまざまな変化が起こります。
たとえば、
✓ 血圧が上がる
✓ インスリンが効きにくくなる
✓ 血糖値が上昇する
✓ 中性脂肪が増える
✓ 慢性的な炎症が起こる
などです。
これらはいずれも、長い時間をかけて心臓や血管に負担をかける可能性があります。

つまり肥満を治療する本当の目的は「体重計の数字を減らすこと」ではなく「その先にある病気を防ぐこと」にあるはずです。

■「よく痩せる薬」が登場しました。でも……

近年、GLP-1という消化管ホルモンの働きを利用した薬が登場しました。
その一つが「セマグルチド」です。日本では、肥満症治療薬として「ウゴービ」という名前で使用されています。
これまでの臨床試験から、セマグルチドによって大きな体重減少が得られる場合があることが分かってきました。

すると、次の疑問が出てきます。
「体重は減る。でも、それで本当に心筋梗塞や脳卒中まで減るの?」この疑問を真正面から調べたのが「SELECT試験」です。

■17,604人を調べたSELECT試験

SELECT試験には、世界各国から17,604人が参加しました。
対象となったのは、
・45歳以上
・BMI 27以上
・糖尿病ではない
・すでに心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈疾患などの心血管疾患がある
という人たちです。
つまり、単に「少し太っている健康な人」を調べた研究ではありません。もともと心血管疾患のリスクが非常に高い人たちを対象にした研究です。
参加者を、「セマグルチド2.4mgを使用するグループ」と「プラセボを使用するグループ」に分けて比較しました。

■心筋梗塞・脳卒中・心血管死はどうなった?

平均約40か月追跡した結果、
心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中を合わせた主要心血管イベントは、
セマグルチド群 6.5% VS プラセボ群 8.0% でした。

統計学的にはハザード比0.80。
つまり、この研究条件では主要心血管イベントの相対リスクが約20%低かったことになります。ここはとても重要なところです。

GLP-1関連薬について「体重が何%減った」という研究はこれまでにもありました。
しかしSELECT試験では「心筋梗塞や脳卒中などの重大な出来事そのものが減った」ことが示されたのです。

■「20%減った」の意味には注意が必要です

ただし、数字の見方には注意が必要です。
「20%減少」と聞くと「100人中20人が助かる」ような印象を持つかもしれません。
しかし、そうではありません。実際の発生率は、8.0% → 6.5%です。差は1.5ポイントです。
つまり「相対的には約20%減少した」と「絶対的には1.5ポイントの差だった」は同じ研究結果を別の角度から表現しています。薬の効果を考えるときには、この両方を見ることが大切です。

■では「太っている人は全員ウゴービを使うべき」?

SELECT試験の対象者は、すでに心血管疾患を持っている人たちでした。
したがって、「肥満の人がウゴービを使えば、誰でも心筋梗塞を20%予防できる」と解釈することはできません。
また、セマグルチドには吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状を中心とした副作用があります。
SELECT試験でも、有害事象による治療中止はセマグルチド群でプラセボ群より多く認められました。
どんな薬にもメリットとデメリットがあります。

■それでも、この研究が重要な理由

私がこの研究で特に重要だと思うのは、「肥満治療の目的とは何か?」という問いを改めて考えさせてくれたことです。
「80kgを70kgにしたい」「昔着ていた服をもう一度着たい」もちろん、それもダイエットの立派な目標です。

しかし医学として考えるなら「血圧を下げる」「血糖を改善する」「脂肪肝を改善する」「身体を動かしやすくする」「そして将来の心血管疾患を減らす」そのための一つの手段として「体重を減らす」と考えた方が、本質に近いのではないでしょうか。

■「何kg痩せたい?」から「何を守りたい?」へ

肥満治療を考えるとき、体重計の数字だけを見る必要はありません。
✓ 血圧が上がってきた
✓ 血糖値も高くなってきた
✓ 中性脂肪が高い
✓ 脂肪肝を指摘された
✓ 家族に心筋梗塞や脳卒中が多い

こうした背景も含めて考えることが大切です。
当院では、単に「何kg痩せたいですか?」だけではなく、血圧、血糖、脂質、生活習慣などを確認しながら、食事・運動療法を基本として、必要に応じて薬物療法についてもご相談しています。

肥満治療のゴールは、体重計に表示される数字そのものではありません。
その先にある、「10年後、20年後の自分の身体を守ること」こそ、本当の目的なのではないでしょうか。

いつの日も こころ楽しく すこやかに 

「いびき・日中の眠気」がある人は要注意です

2026/9/20
「最近、いびきがひどくなったと言われる」
「しっかり寝たはずなのに、朝から眠い」
「昼食後、仕事中にどうしても眠くなってしまう」
そんなことはありませんか?

単なる疲れや睡眠不足と思っているその症状。
もしかすると「睡眠時無呼吸」が隠れているかもしれません。そして睡眠時無呼吸を考えるうえで、実はとても重要なのが「肥満」です。今回は、体重と睡眠の意外に深い関係について考えてみましょう。

■眠っている間に「呼吸が止まる」?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の代表が「閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)」です。
眠っている間に舌や喉の周囲の組織などによって気道が狭くなり、
「いびき」
 ↓
「呼吸が浅くなる」
 ↓
「呼吸が止まる」
 ↓
「酸素が低下する」
 ↓
「脳が反応して呼吸を再開する」
ということを、一晩に何度も繰り返します。
本人は眠っているので、意外と気づきません。
そのため、
✓ 大きないびき
✓ 朝の頭痛
✓ 起床時のだるさ
✓ 日中の強い眠気
✓ 集中力の低下
などが診断のきっかけになることがあります。

■睡眠時無呼吸は「眠いだけ」の病気ではありません

睡眠中に何度も低酸素状態になり、そのたびに身体が覚醒反応を起こすと、自律神経、とくに交感神経が刺激されます。
その結果、睡眠時無呼吸は高血圧をはじめとした心血管系の問題とも深く関係します。
つまり、「いびきがうるさい」だけの問題ではないということです。

閉塞性睡眠時無呼吸の重要なリスク因子の一つが肥満です。
体重が増えると、お腹だけに脂肪がつくわけではありません。首や舌、上気道周囲にも脂肪が蓄積し、気道が狭くなりやすくなります。さらに腹部の肥満によって呼吸運動にも負担がかかります。すると、肥満 → 睡眠時無呼吸 → 睡眠の質低下 → 日中の疲労 → 活動量低下、という悪循環が成立することがあります。
ですから、肥満を伴う睡眠時無呼吸では、CPAPなどによって気道を確保する治療だけでなく、体重管理も重要になります。

■「体重を減らす」ことで睡眠時無呼吸も変わる?

この分野で非常に興味深い研究が2024年に報告されました。「SURMOUNT-OSA」という臨床試験です。
肥満を伴う中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸患者を対象に、GIP/GLP-1受容体作動薬である「チルゼパチド」を52週間使用した研究です。

睡眠時無呼吸の重症度を見る代表的な指標に、AHI(無呼吸低呼吸指数)があります。
これは「1時間の睡眠中に無呼吸や低呼吸が何回起こるか」を表します。
研究開始時には平均して1時間あたり約50回という重症の患者さんたちでした。
52週間後、AHIはチルゼパチド群で平均約25~29回/時減少しました。
一方、プラセボ群では約5回/時の減少でした。
さらに体重だけでなく、
✓ 睡眠中の低酸素負荷
✓ 収縮期血圧
✓ 炎症を示す指標
✓ 患者さん自身が感じる睡眠関連症状
などにも改善が認められました。

■マンジャロで睡眠時無呼吸を治せるの?

ここは誤解を招きがちな部分ですが、SURMOUNT-OSA試験の結果だけから、「いびきがあるからマンジャロを使えばよい」という話にはなりません。

SURMOUNT-OSAの対象は、平均BMIが約39で、中等症~重症の閉塞性睡眠時無呼吸を持つ肥満患者でした。肥満による気道閉塞が原因であれば、チルゼパチドによる減量によって睡眠時無呼吸が軽減される可能性はあります。
実際、「マンジャロ」と同じ有効成分チルゼパチドを使用した肥満症治療薬「ゼップバウンド」は、日本では一定の条件を満たした睡眠時無呼吸症候群の患者に治療適応があります。
しかし、睡眠時無呼吸そのものについても、重症度などに応じてCPAPをはじめとする適切な治療が必要です。肥満が原因ではなく生じている睡眠時無呼吸症候群もあります。薬を使うことだけが答えではありません。

■「いびき」を身体からのサインとして考えてみる

大切なのは、「最近いびきがひどくなった」という変化を、単なる睡眠の問題として片づけないことです。
たとえば、
✓ 以前より10kg以上太った
✓ 首まわりが太くなった
✓ 血圧も高くなった
✓ HbA1cも上昇してきた
✓ 脂肪肝を指摘された
✓ 日中眠くて仕方がない
という変化が一緒に起きているのであれば、「いびき」「血圧」「血糖」「体重」は、それぞれ別の問題ではないかもしれません。
背景にある肥満や代謝異常という一つの問題が、身体のさまざまな場所に現れている可能性があります。

■「痩せる」ではなく「よく眠れる身体」へ

肥満治療というと、「見た目を良くするため」というイメージがまだ強いと思います。
しかし、
ぐっすり眠れる。
朝すっきり起きられる。
昼間元気に活動できる。
これも立派な肥満治療の目標です。

当院では、単に「何kg痩せたいか」だけではなく、血圧、血糖、脂質、生活習慣などを含め、肥満によって身体にどのような影響が出ているのかを考えながら治療をご相談しています。

ご家族から、「最近いびきがひどくなったよ」と言われたら。
それは身体から届いた小さなサインかもしれません。
体重計の数字だけではなく、身体全体を一度見直してみてはいかがでしょうか。

いつの日も こころ楽しく すこやかに 

『まだ糖尿病ではないから大丈夫』は本当?

2026/9/16
境界型血糖と肥満の関係

健康診断の結果を見て、「血糖値が少し高いですね」「HbA1cが上がってきていますね」と言われたことはありませんか?
でも糖尿病と診断されたわけではない。「まだ薬も必要ないし、大丈夫でしょう」そう考えて、そのままにしている方も少なくありません。

しかし、この「糖尿病になる一歩手前」の時期こそ、身体を立て直す大切なタイミングかもしれません。
今回は、肥満と血糖値の関係について考えてみましょう。

糖尿病は突然始まるわけではありません

2型糖尿病の多くは、昨日まで正常だった血糖値が突然高くなるわけではありません。その何年も前から身体の中では変化が始まっています。
特に重要なのが、「インスリン抵抗性」です。
インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞へ取り込ませ、血糖値を下げる働きをしています。ところが内臓脂肪が増え、運動不足などが重なると、インスリンが効きにくい状態になってきます。すると身体は、「インスリンが効かないなら、もっとたくさん出そう」と頑張ります。
そのため、血糖値がそれほど高くない段階でも、実は膵臓が大量のインスリンを分泌して血糖値をなんとか維持している場合があります。これが続き、やがて膵臓が十分に対応できなくなってくると、血糖値がさらに上昇し、2型糖尿病へと進んでいきます。

「糖尿病になってから治療」だけが選択肢ではありません

ここで大切なのは、糖尿病になる前の段階には、まだできることがたくさんあるということです。
有名なDiabetes Prevention Program(DPP)という研究では、糖尿病になるリスクの高い人に、食事や運動による生活習慣改善を行いました。
目標は、✓ 体重を約7%減らす ✓ 週150分以上身体を動かす というものでした。その結果、平均2.8年間の観察で、生活習慣改善群ではプラセボ群と比較して2型糖尿病の発症が58%少なくなりました。
つまり、「まだ糖尿病ではない時期に体重と生活習慣を改善する」ことには、医学的にも大きな意味があるのです。

では、大幅に体重を減らしたらどうなる?

近年、この分野で興味深い研究結果が報告されました。GIP/GLP-1受容体作動薬である「チルゼパチド」を調べたSURMOUNT-1という研究です。
この研究のうち、「肥満があり、さらに糖尿病前段階にある」1,032人について約3年間追跡した結果が報告されています。176週後の平均体重減少率は、投与量によって約12~20%でした。さらに興味深いのが糖尿病の発症です。2型糖尿病と診断された人は、チルゼパチド群1.3% VS プラセボ群13.3%でした。非常に大きな差です。

ただし、この結果の解釈には注意が必要です。
これは海外で行われた特定の条件下での臨床試験であり、「チルゼパチドを使えば誰でも糖尿病を予防できる」という意味ではありません。また、日本でマンジャロ(チルゼパチド)は「2型糖尿病」の治療薬として承認されており、糖尿病のない人の肥満治療を目的とした使用は承認された適応とは異なります。

大切なのは「薬」よりも「いつ介入するか」

この研究から私たちが考えたいのは、「マンジャロを使えばよい」という単純な話ではありません。
むしろ重要なのは、「糖尿病になってから考える」のではなく、その前から肥満や代謝異常に目を向けるということです。
たとえば、✓ 以前より体重が10kg増えた ✓ お腹まわりが大きくなった ✓ HbA1cが年々上昇している ✓ 血圧も高くなってきた ✓ 中性脂肪が高い ✓ 脂肪肝を指摘された このような変化が重なっているなら、「まだ糖尿病ではないから大丈夫」と考えるより、一度生活習慣や体重を見直してみる価値があります。

肥満治療の第一歩は「身体を知ること」

もちろん、血糖値が少し高い人すべてに薬が必要なわけではありません。
まず大切なのは食事、運動、睡眠などの生活習慣です。
実際、先ほど紹介したDPP研究では、薬を使わなくても生活習慣の改善によって糖尿病発症リスクを大きく減らすことができました。一方、生活習慣を改善しても体重がなかなか減らない人や、肥満に伴う健康問題がすでに生じている人では、医学的な肥満治療について検討する場合もあります。
当院では単に、「何kg痩せたいですか?」ということだけではなく、血糖・血圧・脂質・体重・生活習慣などを一緒に考えながら、将来の生活習慣病を予防するために何ができるのかを考えていきます。

健康診断で「少し血糖値が高い」と言われたとき。
それは怖がる必要のある数字ではありません。
むしろ、「今なら身体を変えられるかもしれませんよ」という身体からのサインとして、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

いつの日も こころ楽しく すこやかに 

肥満に対する医学的認識が変わりました

2026/9/9
「痩せたいけれど、なかなか体重が減らない」
「健康診断で毎年『体重を減らしましょう』と言われる」
「血圧も血糖値も少しずつ高くなってきた」
そんなお悩みはありませんか?

「ダイエット」というと、どうしても「見た目を良くする」「細くなる」というイメージがあります。
しかし医学的には、肥満治療の目的は単に体重計の数字を減らすことではありません。
今回は「肥満を治療する本当の意味」について考えてみましょう。

■問題なのは「体重」だけではありません

肥満、とくに内臓脂肪が増えると、身体の中ではさまざまな変化が起こります。
たとえば、
✓ 血圧が高くなる
✓ 血糖値が高くなる
✓ 中性脂肪が増える
✓ 脂肪肝になる
✓ 睡眠時無呼吸を起こしやすくなる
✓ 膝や腰への負担が増える
などです。
つまり肥満治療で本当に考えたいのは「何kgになりたいですか?」だけではなく
「余分な脂肪によって身体に何が起きているのでしょうか?」ということなのです。

■「食べなければ痩せる」は正しい。でも……

体重を減らす基本は食事と運動です。
摂取するエネルギーより消費するエネルギーが多ければ、理論上は体重が減っていきます。ところが人間の身体はそれほど単純ではありません。
食事量を減らして体重が落ちてくると、身体はエネルギー消費を節約しようとします。また、食欲や満腹感にはGLP-1をはじめとした消化管ホルモンや脳の食欲調節機構など、多くの生理機能が関係しています。
そのため、「頑張って10kg痩せたのに戻ってしまった」ということは決して珍しくありません。

肥満治療は「本人の意志の強さ」だけで解決できる問題ではないのです。

■肥満治療にも薬を使う時代になりました

近年、この食欲やエネルギー代謝に関係する仕組みに作用する薬が登場しています。
代表的なのがGLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(ウゴービ)や、GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(ゼップバウンド、マンジャロ)です。
セマグルチド2.4mgを検討したSTEP 1試験では、食事・運動などの生活習慣への介入を行ったうえで、68週間後の平均体重変化率はセマグルチド群-14.9%、プラセボ群-2.4%でした。
またチルゼパチドを検討したSURMOUNT-1試験では、72週間後の平均体重変化率は用量に応じて約-15~-21%でした。
もちろん、これは「誰でも同じだけ痩せる」という意味ではありません。対象患者や投与量などの条件が定められた臨床試験の平均値です。

■「痩せ薬」ではなく、代謝を考える薬

ここが大切なところです。
これらの薬を単純に「注射するだけで痩せる薬」と考えるのは適切ではありません。
実際、これらの薬について現在研究されているのは体重だけではありません。血糖、血圧、脂質、心血管疾患、睡眠時無呼吸、脂肪肝など、肥満に関連するさまざまな健康問題について研究が進んでいます。

つまり現在の肥満治療は、「体重を減らすこと」から「肥満によって生じている健康障害を改善すること」へ考え方が変わりつつあるのです。

■では、誰でも薬を使えばいいのでしょうか?

もちろん、そうではありません。
薬物療法には吐き気、便秘、下痢などの消化器症状をはじめとする副作用があります。また、病歴や服用中の薬などによって使用に注意が必要な場合があります。
さらに薬だけに頼って食生活や運動習慣を変えなければ、長期的な健康管理として十分とはいえません。
そして日本では、ウゴービやゼップバウンドは一定の条件を満たした「肥満症」に対して承認されています。一方、マンジャロ(チルゼパチド)は2型糖尿病治療薬であり、肥満・減量を目的とする使用は国内承認の適応とは異なります。したがって、これらは「希望すれば誰でも使う薬」ではなく、メリットとリスクを理解したうえで医師と相談する必要があります。

■体重計ではなく「身体全体」を見てみましょう

もし、
✓ 最近お腹まわりが大きくなってきた
✓ 健診で血糖値を指摘された
✓ 血圧が上がってきた
✓ 脂肪肝と言われた
✓ いびきがひどくなった
✓ 膝が痛くて運動できない

といったことがあれば、「ダイエットしなければ」と考えるだけではなく、「なぜ体重が増え、身体にどのような影響が出ているのか?」を一度医学的に考えてみてもよいかもしれません。
当院では体重だけを見るのではなく、血圧・血糖・脂質・生活習慣などを含めて身体の状態を評価し、食事・運動療法を基本として、必要に応じて薬物療法についてもご相談しています。
目標は「細くなること」ではありません。これから10年、20年を健康に過ごすために、今の身体を整えること。
それが医学として考える「肥満治療」なのです。

いつの日も こころ楽しく すこやかに 

(参考文献)
・「Once-Weekly Semaglutide in Adults with Overweight or Obesity」N Engl J Med 2021;384:989-1002 
・「Tirzepatide Once Weekly for the Treatment of Obesity」N Engl J Med 2022;387:205-216
・Wegovy Subcutaneous Injection_Novo Nordisk Pharma Ltd._ review report
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