過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は命に支障はないものの生活の質(QOL)をおおきく損なう疾患です。
「腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が慢性もしくは再発性に持続する状態」と定義されており、下痢型・便秘型・混合型などに分類されています。排便することで腹痛や違和感が軽減することも特徴です。
消化管と脳神経は密接に関係しており(腸脳相関)、IBSの発症にはストレスや心理的異常、遺伝的素因との関連があると考えられています。また、近年では腸内細菌叢(腸内フローラ)分野における研究も進んでいます。
<検査・診断>診断基準として「
ローマⅣ基準」が頻用されます。IBSのローマIV基準は次のとおりです。
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最近3ヶ月間、月に4日以上腹痛が繰り返し起こり、次の項目の2つ以上があること。
1. 排便と症状が関連する
2. 排便頻度の変化を伴う
3. 便性状の変化を伴う
期間としては6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記基準をみたすこと
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・血液検査 … IBSの特徴的なマーカーなどはありませんが、一般的な血液検査に加えホルモン
異常の有無などもチェックします。
・X線、CT検査 … 腹部の器質的疾患や腸管ガスの貯留を確認します。
・下部消化管内視鏡検査 … いわゆる大腸カメラでは大腸がんや炎症性腸疾患などの疾患の有無
を確認することができます。
<治療>
IBSに対する代表的な治療薬をご紹介します。
・ポリカルボフィルカルシウム(ポリフル、コロネル)
…腸内の水分調節、消化管の運動を調整します。下痢型にも便秘型にも効果があります。
・ラモセトロン(イリボー)
…下痢や腹痛に効果があります。
・モサプリド(ガスモチン)
…胃腸の動きを調整する薬です。便秘型に効果があります。
・マレイン酸トリメブチン(セレキノン)
…こちらも胃腸の動きを調整する薬です。消化管機能が亢進している場合にはブレーキをかけ、
低下している場合には刺激するという働き方をします。
その他、症状に応じてさまざまな薬を組み合わせて治療することが一般的です。
また、過敏性腸症候群では食事にも気をつけることが大切です。
動物性油や香辛料、アルコールの多飲は症状を悪化させると考えられています。一方、食物繊維やプロバイオティクスには症状改善効果が期待されています。腸内細菌叢とIBSとの関連はさかんに研究されており、もっとも期待されている領域です。
過敏性腸症候群にたいする漢方薬の有効性もわかってきています。
代表的な漢方薬は「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」です。西洋薬では改善しにくい残便感やお腹の張り感に効果があります。
漢方薬と西洋薬をうまく組み合わせて穏やかな日常を送れるようにサポートいたします。