現代では平熱が36℃未満の低体温のひとがたくさんいらっしゃいます。
低体温では新陳代謝が落ちこんでおり、花粉症、うつ、月経困難、がんなどさまざまな疾患の要因となります。
からだの臓器や組織が十分に活動するためには、ホルモンや酵素、細胞などが活動するのに適した環境が必要です。
体温もその一つであり、低体温では人体にそなわるさまざまな性能を十分に発揮することができません。
冷え症のかたの場合、体表面での血行不良であったり、免疫細胞の活性が低下していると考えられますので、感染症やがんに対する抵抗力が低下していることが推測されます。
医学的な低体温症の定義は「直腸温が35℃以下」の状態です。
これは身体の中心部の体温も低下しており、生命維持にとって危機的な状況を意味しています。
一般的には救急搬送されてICUで集中治療をうけるべき状況です。
冷え症とは体温の低下もあるものの、医学的な定義における低体温症とは異なります。
冷え症のかたの体温は36℃台前半~35℃台がほとんどですが、これは腋の下で測った体温ですので直腸温とのズレが生じてきます。
むしろ自覚症状として寒さや冷たさを他のひとよりも強く感じており、日常生活になんらかの支障が生じている状態が冷え症です。
西洋医学では冷え症に対する効果的な治療方法がない一方、漢方では体を温める薬がたくさんあります。
2000年も昔から「冷えは万病のもと」という認識があった証拠です。
漢方による冷え症の治療では、身体のどの部分が冷えているのか、全身的なのか局所的なのか、ほかにどのような症状があるのか、細かい問診と診察所見が必要になります。
<症状・治療>
・全身的な冷え
…新陳代謝が低下している場合がほとんどです。心身ともに消耗している場合には「十全大補湯
(じゅうぜんたいほとう)」を使用します。冷えの中心が下半身にあり、下痢をしやすい場合
には「真武湯(しんぶとう)」を、冷えの中心がお腹にあり、便秘や下痢、お腹の張りや痛み
などがある場合には「大建中湯(だいけんちゅうとう)」を使用します。
老化現象によって身体の機能が徐々に低下していき、余裕がなくなっていく状態のことを「フ
レイル(脆弱)」と表現します。東洋医学的には病気と健康の中間的な状態という意味で未病
と表現される状態です。近年ではフレイルに対する「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」
という漢方薬の有効性が注目されています。
・手足の先が冷えるタイプ
…末梢循環障害(血のめぐりが悪い)の場合と精神的な緊張による場合があります。血のめぐり
が悪く、手や指先の肌が荒れたりしもやけやアカギレになる場合には「四物湯(しもつと
う)」や「当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)」を使用
します。
精神的な緊張が原因で手足が冷える場合には「四逆散(しぎゃくさん)」を使用します。
・下半身中心の冷え
…腰回りが冷えて、足腰の衰えとともに尿のトラブル(頻尿、夜間尿)が生じた場合には「八味
地黄丸(はちみじおうがん)」などの補腎剤グループの適応です。腰痛に対してもよく使用し
ます。
腰から下が冷たい水に浸かっているように冷えてだるく、腰痛がある場合には「苓姜朮甘湯
(りょうきょうじゅつかんとう)」という漢方薬を使用します。
・下半身は冷えるのに上半身はのぼせるタイプ
…比較的体力があるひとの末梢循環障害がおもな原因です。生理不順や更年期障害と関係してい
ることがほとんどです。漢方薬では「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」や「加味逍遙散
(かみしょうようさん)」などを使用します。
これらの他にも「冷え」に関連した症状に用いる漢方薬は数多くあります。冷えに随伴する症状と漢方薬を簡単に列挙しておきます。
・下半身の冷え、手足のほてり、口の渇き、月経不順 → 温経湯
・むくみ、貧血、月経困難 → 当帰芍薬散
・冷え症のひとの花粉症 → 苓甘姜味辛夏仁湯
・クーラー風邪 → 五積散
・カゼやインフルエンザでだるさ、寒気がとても強い → 麻黄附子細辛湯
・頭痛、吐き気、肩こり → 呉茱萸湯
・やせ型で冷え症、甘いもの好きなひとの胃痛 → 安中散
・虚弱体質でお腹が弱い子供 → 小建中湯
などなど、数えだしたらキリがないくらい、冷え症と関連した漢方薬はたくさんあります。