不眠症(睡眠障害)は睡眠の質や量の異常をひとまとめにした表現ですが、①寝つきが悪い、②寝ても短時間で目覚めてしまう、③熟睡した感じがしない、の3つの症状があります。これらが単独の場合もあるし、複数組み合わせの場合もあります。
西洋医学的治療には睡眠導入剤や抗不安剤などさまざまな治療薬がありとても便利なのですが、飲み始めてしまうと薬をやめたときに眠れなくなることが心配になってしまい、薬を手放せなくなってしまいがちです(精神的依存)。
安全性については過量内服時の予防などのため安全にはなっていますが、翌朝目覚めてもまだ強い眠気を感じてしまう(持ち越し効果)こともあります。
メラトニンという安全性の高い睡眠ホルモン剤も開発されましたが、不眠症でお悩みのかたは「飲んですぐ眠れる」ことを期待されているため海外ほど普及していない印象です。海外ではメラトニンはサプリメントとしてコンビニエンスストアでも安く購入できます。
漢方薬は西洋薬のような強力な催眠作用はなく、睡眠・覚醒のリズムを整えたり、睡眠を妨害する症状を抑えたりするアプローチ方法となります。
<代表的な漢方薬>
・酸棗仁湯(さんそうにんとう)
…漢方の睡眠剤といったらコレという薬です。肉体的には疲れているはずなのに気分がたかぶっ
てしまい眠れないときなどに使用します。睡眠のリズムを整える効果もあるため、長時間寝す
ぎてしまうひとにも有効です。
・柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
…神経過敏なため物音や光の刺激ですぐに目覚めてしまうひとに有効です。交感神経を鎮めてく
れる漢方薬です。イライラやストレスがたまっているひとに向いています。高血圧や動脈硬化
症にも使用することがあり、当院では「働き盛りでがんばっているひとのためのお薬」と説明
しています。
・桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
…柴胡加竜骨牡蛎湯よりも心身ともに弱っているひと向けの薬です。神経過敏というよりも繊細
という表現が合います。自分の心臓の拍動をつよく感じてしまったり、不快な夢をよく見る場
合にはこちらを使用します。ストレス性の脱毛や若白髪、男性不妊症やEDにも使用します。
・抑肝散(よくかんさん)
…寝ようと思ってもあれこれと考えが頭のなかでグルグルめぐってしまう場合に有効です。不安
感というよりも、ふだんからストレスがたまっていてイライラしやすく、怒りっぽいひとの神
経を鎮めてくれます。夜中に目覚めてしまったり、歯ぎしりをして朝になると顎がこわばって
いる場合などにも有効です。レム睡眠行動障害にも効果があると思われます。
・加味帰脾湯(かみきひとう)
…気持ちが落ちこんでしまい、不安や心配事があって眠れないひとに向いています。抑肝散や柴
胡加竜骨牡蛎湯はストレスに対抗している状態でしたが、こちらはストレスで心が折れそうな
(折れてしまった)状態のイメージです。
これらは不眠症(睡眠障害)に使用する代表的な漢方薬です。
随伴症状やほかの原因疾患によっては、もっと多くの漢方薬が不眠症の治療に使用されます。
たとえば睡眠障害というよりも夜間に何度もトイレで目覚めてしまう場合には加齢による「腎」の衰えが原因と考えられます。六味丸(ろくみがん)や八味地黄丸(はちみじおうがん)などの補腎剤が有効です。
更年期症状による不眠には加味逍遙散なども使用します。
当院では睡眠のリズム(いわゆる体内時計)を修正し、自然な睡眠・覚醒のリズムをつくることで睡眠剤に頼らずに生きていけることを目標としてメラトニン(ロゼレム🄬)や酸棗仁湯を中心に処方しています。即効性はないかもしれませんが、体が少しずつバランスを修正しながら眠れるようになっていくことが自然であると考えます。