食欲の低下は胃腸の疾患に限らずさまざまな疾患が原因となって生じる症状です。
若年者の場合には糖尿病や甲状腺の急性増悪時や妊娠、HIVや結核などの慢性感染症、精神疾患を見逃さないことが重要です。
高齢者の場合には悪性腫瘍や急性感染症、フレイル、薬物の副作用、義歯不適合などに対する注意が必要です。
※食欲低下をおこす薬剤NSAIDs、ビスホスホネート(骨粗鬆症)、ジギタリス(不整脈)、テオフィリン(気管支喘息)、塩酸ドネペジル(認知症)、抗うつ薬、糖尿病薬、抗がん剤 などなど
ストレスや感情の状態は食欲に大きく影響を与えますが、いつまでも食欲が回復しない場合には内臓疾患の可能性を考える必要があります。
食欲の低下はさまざまな疾患により生じるため、食欲低下以外の症状から予想される疾患に対して検査をおこないます。
<検査・診断>・消化器疾患 →腹部レントゲン写真、腹部エコー、上部消化管内視鏡検査 など
・呼吸器疾患 →胸部レントゲン写真、胸部CT など
・急性感染症や炎症性疾患 →上記のほか血液検査 など
上述の通り、高齢者では悪性疾患や認知症、隠れた感染症の可能性を常に考えなければなりません。
漢方で食欲の低下を診療する場合は、体が弱っている「虚(きょ)」の状態であることが多いため、どのように弱っているのかを考えます(もちろんその他の状況も考えます)。
・胃腸が弱っている → 脾虚
・エネルギー切れになっている → 気虚
・心身共によわっている → 気血両虚
食欲低下の原因として西洋医学的治療が有効な場合にはまず一般的な治療をおこないます。
特定の原因疾患がない場合や心身症などの非器質的疾患、あるいは一般的な治療の補助として漢方薬は非常に有用です。
ここでは代表的な漢方薬のみご紹介します。
<代表的な漢方薬> ・四君子湯グループ
…四君子湯(しくんしとう)は胃腸が弱って食事を十分にとることができず、元気がなくなって
いる場合(気虚)の基本的な漢方薬です。ここから派生した六君子湯(りっくんしとう)は機
能性胃腸症や胃もたれなどによく使用されています。六君子湯からさらに派生した補中益気湯
(ほちゅうえっきとう)は食欲の低下ばかりでなく病後の体力低下、虚弱体質改善、胃下垂、
脱肛、子宮脱など、“落ち込んだもの全般”に対して使用します。
・柴胡剤グループ
…ストレスや疾病の影響で食欲がなくなる場合もあります。急性感染症がやや進行すると食欲が
なくなるものですが、そのような状況では小柴胡湯(しょうさいことう)グループの漢方薬を
使用することがあります。小柴胡湯は主に少陽病期の漢方薬ですが、バリエーションも多数あ
るため、ひとりひとりの病態に合わせて処方をおこないます。
・人参養栄湯(にんじんようえいとう)
…高齢者の老衰(フレイル)による食欲不振にたいする処方薬として近年注目されています。
ガン治療の場面でもよく使用されている漢方薬です。漢方的には気血両虚という心身ともに
衰弱している状態です。
・清暑益気湯(せいしょえっきとう)
…暑気あたりによる食欲不振をはじめとした体調不良時に使用する漢方薬です。補中益気湯と似
たような漢方薬ですが、こちらを好んで一年中内服されるひともいらっしゃいます。
漢方では胃腸が元気であることをとても重視しています。
きちんと食事を摂って、生命エネルギーを生み出すために胃腸の健康が大切なのです。
漢方で、からだにやさしく、自然治癒力を高めて病気を治しましょう!