保険診療で使用する漢方薬だけでガンを治療することには限界がありますが、近年ではガンによる症状やガン治療に伴う副作用や後遺症のコントロールなどの目的に漢方薬が活用されています。
<がん治療の場面で使用される代表的な漢方薬>
・化学療法(抗がん剤)の副作用対策
…口内炎対策として半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)を治療開始時から内服します。お湯に溶
かしてうがいしながら内服する点がポイントです。末梢神経障害によるしびれ対策には牛車腎
気丸(ごしゃじんきがん)を抗がん剤投与前後の短時間で内服します。骨髄抑制(白血球数の
減少や貧血)に対しては後述する「補剤」を使用します(効果は限定的です)。
・手術や放射線治療による後遺症・副作用対策
…腹部手術後の腸閉塞(イレウス)による腹部膨満感に対して大建中湯(だいけんちゅうとう)
が頻用されています。胃切除術後のダンピング症候群には六君子湯(りっくんしとう)を使用
します。手術による体力の消耗に対しても後述する「補剤」を使用します。
リンパ節郭清の影響や放射線治療による局所的な炎症や浮腫に対しては五苓散(ごれいさん)
を使用することがあります。
・ホルモン療法による医原性更年期症候群対策
…基本的には更年期障害に使用するのと同じ漢方薬を使用します。女性であれば加味逍遙散(か
みしょうようさん)や桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、男性であれば六味丸(ろくみが
ん)や八味地黄丸(はちみじおうがん)などです。
<がんによる症状や体力の低下に対して使用される代表的な漢方薬>
・補剤グループ
…一言で表現すると「元気をつけてくれる漢方薬」というイメージです。生命エネルギーの消耗
(気虚)と肉体的な消耗(血虚)を補うことが主な効果です。人参(朝鮮人参)と黄耆という
生薬がセットで含まれているものが多く存在します。補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は消
化器が弱ってきて十分に食事を摂ることができず、体力が低下するような場合に使用します。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は生命エネルギーと肉体面の両者を底上げするよう
な働きをします。人参養栄湯(にんじんようえいとう)は十全大補湯よりも消耗した状態とさ
れ、精神不安や不眠などの心理的症状や咳などの症状が出現した場合に使用します。
これらの補剤グループは、基礎実験レベルではがん細胞の増殖や進行を抑制する効果が確認さ
れています。
・がんに関連した症状に対して
…がんと診断されて不安や抑うつ気分になるのは自然なことです。そのようなときには香蘇散
(こうそさん)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を使用します。胸水や腹水に対しては
五苓散(ごれいさん)を使用します。また、がん患者さんは免疫抑制状態であり、帯状疱疹
が再発しやすくなります。帯状疱疹後神経痛に対しては桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅ
つぶとう)を使用します。
保険診療ではありませんが冬虫夏草(とうちゅうかそう)は消耗した身体機能を回復させ、免疫力を高める目的で使用されることの多い漢方薬です。また、Huaier(カイジ顆粒)は肝・胆道系悪性腫瘍に対する目覚ましい効果が確認され、現在ではさまざまなガンに対する研究が進んでいる漢方薬です。