心身一如(しんしんいちにょ)という言葉がある通り、東洋医学では心と体を一体のものとして考えます。
西洋医学(現在の標準的な医学)では肉体的な側面(物質的側面)にだけ注目して病気や健康を考え、心(非物質的側面)については完全に切り離してしまっています。心療内科という分野が発展しつつあるものの、双極性障害や統合失調症については脳の異常であるとかホルモンの異常という考えが中心であり、薬物治療が主流となっています。
現代のようなストレス社会では、自然環境からも切り離されてしまい、人間が人間らしく過ごすことが困難になりつつあります。勉強や仕事、家庭での問題や悩み、社会情勢の不安定化、格差の拡大など人類はかつてないほどのストレスにさらされています。
近年の先進国における精神疾患の増加はまさしくこれを裏付けています。
東洋医学では六病位理論や気血水理論など、古代の東洋思想と一体化した理論による診断・治療をおこなってきました。
東洋医学の理論では、心の不調(健康)と肉体の不調(健康)はコインの裏表であるかの如くつながっています。
例えば「不安と動悸」「イライラと高血圧」「抑うつと睡眠障害」などは西洋医学では別々の薬を投与したりしますが、漢方ではこれらの心身の症状が一つの「証」として認められる場合には一つの漢方薬で治療をおこないます。
さすがに双極性感情障害や統合失調症などの内因性精神疾患を漢方薬だけで完治させることは困難であり、精神科医による専門的な診断・治療が勧められています。診断ついても非常に細かくわかりにくいため専門医による診察・診断を受けることをオススメいたします。
(古代では祟りや狐憑きなどで済まされてしまっていた疾患がありますので…)
しかし、精神疾患と思っていたら実は器質的疾患が原因である場合もあります。甲状腺機能低下症によるうつ症状やホルモン産生腫瘍による精神症状です。また、レビー小体型認知症では幻視症状があります。
器質的精神疾患は「治せる疾患」ですので、見落としをしないためにも身体的な検査は必ず受けていただくことをオススメいたします。
<代表的なメンタル漢方薬>
漢方診療の得意とするところは「心身症」とされる疾患が中心ですが、一部の精神疾患の症状にも有効な場合もあります。
精神科領域の症状に対して使用することのある代表的な漢方薬の「証」についてご紹介いたします。
・半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
…体力中等度以下の人で、顔色がすぐれず、神経症的傾向があり、咽喉が塞がる感じ(いわ
ゆるヒステリー球)を訴える場合が典型的です。
①気分がふさぎ、不眠、動悸、精神不安などを訴える場合
②呼吸困難、咳嗽、胸痛などを伴う場合
③心窩部の振水音を伴う場合
・香蘇散(こうそさん)
…もともと胃腸虚弱で、抑うつ傾向のある人の感冒の初期に用いるのが典型的です。
①食欲不振や軽度の悪寒、発熱などを伴う場合
②葛根湯や麻黄湯などの麻黄剤では食欲不振を起こす場合
・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
…比較的体力の低下した人で、神経過敏で興奮しやすく、怒りやすい、イライラする、眠れない
などの精神神経症状を訴える場合に用います。
①抑肝散に比べ、より体力が低下して症状がより慢性化していることが多い。
②おちつきがなく、ひきつけ、夜泣きなどのある小児
③眼瞼痙攣や手足のふるえなどを伴う場合
④腹直筋の緊張している場合
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
…比較的虚弱な人で、疲労しやすく、精神不安、不眠、イライラなどの精神神経症状を訴える場
合に用います。
①肩こり、頭痛、めまい、上半身の灼熱感、発作性の発汗などを伴う場合
②心窩部・季肋部に軽度の抵抗・圧痛のある場合
③性周期に関連して上記精神神経症状を訴える場合
・桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
…体質虚弱な人で、やせて顔色悪く、神経過敏あるいは精神不安などを訴える場合に用いる。
①陰萎、遺精などを訴える場合
②易疲労感、盗汗、手足の冷えなどを伴う場合
③腹部が軟弱無力で臍傍に大動脈の拍動を蝕知する場合
・甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
…比較的体力の低下した人で、精神興奮がはなはだしく、不安、不眠、ひきつけなどのある
場合に用いる
①腹直筋の攣急している場合
ここでご紹介したものはごく一部の漢方薬であり、また、処方する漢方薬についても患者様お一人お一人に合わせた漢方薬を処方いたします。
古典をたどると「キツネ憑きを白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)で治療した」などという面白い記述もあります。
また、意外かもしれませんが、てんかんに対する漢方治療もかつては盛んにおこなわれており、小柴胡湯(しょうさいことう)と桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)をセットで使用します。
精神症状ばかりでなく、身体的な症状を中心とした疾患(心身症)として
機能性ディスペプシア、慢性胃腸炎、過敏性腸症候群、高血圧症、月経前症候群、更年期障害、チックなどの心身症の治療もおこないます。
詳細は「心身症」のページもご覧ください。
近年では認知症に関連した症状に対する漢方薬の有用性も確認されつつあります。
たとえば脳血管障害型認知症に対する黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、アルツハイマー型認知症に対する当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などは早期であれば症状改善効果が期待できます。
🍀メンタル漢方外来のご案内🍀
上記の通り、漢方薬は心身の不調に対して有効なものが多く、適切に使用することで抗不安剤や向精神薬の減量に役立つ場合があります。双極性障害や内因性うつ病、統合失調症などの精伸疾患を根治することはできませんが、症状の一部を軽減できる場合があります。本来であれば精神科で治療すべき症状があっても、精神科の初診は予約がとりづらく、予約できても数カ月先という場合があります。
これらのお悩みに少しでもお役に立てればと、メンタル漢方外来を開設いたしました。
メンタル漢方外来の対象疾患:不安神経症、神経衰弱、反応性抑うつ、イライラ、ヒステリーなどの精神神経症状およびパニック障害、強迫性障害、広場恐怖症、自律神経失調症、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、月経前症候群、月経に伴う精神不安、更年期症候群、学校や職場での不調
(注)通常の診療でもこれらの疾患に対する漢方治療をおこなっておりますが、身体症状からのアプローチとなります。メンタル漢方外来では心理面や内面世界へのアプローチを重視した診療となります。
メンタル漢方外来は火曜日の午後に開設しています。
初診のかた ➡ ファストパス初診(予約料6000円) 診察時間30分
再診のかた ➡ ファストパス再診(予約料3000円) 診察時間10分~15分
メンタル漢方外来をご希望のかたは、お電話にてご予約ください。通常の診療枠にするかお悩みのかたもお電話にてお問合せください。