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(ホラーじゃないよ)「血の道症」

「血の道症」という言葉を聞いたことがありますか?

文字だけみるとなんだかサスペンスのようなホラーのようなおどろおどろしい病気のような印象を受けるかもしれませんが…

月経の前後ではホルモンバランスが大きく変化するため、女性の体にはいろいろな症状が現れることがあります。女性のホルモンバランスの変動による体調の変化のことを「血の道症」と呼んでいるのです。

東洋医学には「気血水理論」という独自の医学理論がありますが、文字通り、血の道症とは「血(けつ)」の異常が中心の病態であることがわかります。とはいえ、女性ホルモンの変動は女性の一生涯の大半に大きな影響を与えるため、血の道症とは女性の年齢による生理的変化そのものとも言うことができます。

さて、生理前になると顔に吹き出物ができたり、便秘になったり、イライラしやすくなる方が多いと思われます。

西洋医学的に薬物治療をおこなう場合、それぞれの症状に対して1つずつ薬を使うことになるため、これだけでも3種類の薬が必要になってしまいます。あるいはピルを処方されるかもしれませんが、ピルとは人工的に体を妊娠中のホルモン状態にすることで月経を止める(または月経をコントロールする)治療方法なので、東洋医学的には不自然で悪影響が懸念される治療法です。

一方、漢方薬は総合的に体のバランスをとるように設計されているため、これらの症状も1種類の薬で治療が可能と思われます。
吹き出物や便秘は気血水理論では「瘀血(おけつ)」の症状と考えられます。イライラする症状は、気の巡りの異常(気逆)が生じていると考えられます。やや専門的な話となりますが、「血(けつ)」の流通や総量は、東洋医学でいう「肝」という生理機能が調節しています。「肝は蔵血の臓」と言って表現しているのです。そして、「肝」の機能には交感神経を中心とした自律神経のコントロールも一部含まれています。イライラするというのは、交感神経が昂っている状態であり(戦闘モードですね)、本来の気の巡りのバランスが崩れた状態(気逆)です。

月経というのは女性ホルモンの大きな変動でした。生理の時に子宮内膜に経血が溜まる状態はまさに生理的な瘀血の状態ですが、血のコントロールに関わっている肝もその調節に関与しているわけです。肝に負担がかかって、肝がオーバーヒートするようなイメージになると、肝気がたかぶった状態となり、気のコントロールに影響が出るため気逆の症状としてイライラすることになるのです。

さて、そんな時には漢方薬が有効なわけですが、まずは加味逍遙散桂枝茯苓丸桃核承気湯などが候補となります。これらの漢方薬はいずれも「瘀血」の病態に使用される漢方薬です。さらに患者様の体力や症状の強さに応じて薬を絞っていきます。

加味逍遙散はやや虚弱なかた向きで、瘀血の他に肝気鬱結(肝気の昂り)に力点を置いている漢方薬です。

桂枝茯苓丸は瘀血の治療薬のなかでもっともスタンダードな漢方薬です。ヨクイニンを加えるとニキビや吹き出物により効果的になりますが、子宮筋腫の腫脹の場合などにも使用されます。

桃核承気湯はかなり実証向きの薬です。瘀血に加えて気逆の症状が強い状態によく使用されます。厳密には陽明病期であり太陽蓄血証などと言うのですが一般の方はそこまで理解しておかなくてもよいでしょう。

これらの3種類の瘀血治療薬を中心に治療を考えていくのですが、1種類の漢方薬で十分に症状が改善しない場合には、複数の漢方薬を併用することもありますし、今回ご紹介していない漢方薬もまだまだたくさんあります。

「血の道症」とは女性の生涯の大半に関わる問題でした。更年期障害や、閉経後症候群もまた血の道症と考えられるため今回ご紹介した漢方薬は幅広い年代の方に使用されています。


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