新前橋すこやか内科・漢方内科クリニック|内科・漢方内科、外科、補完・代替医療(自由診療)

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ベーチェット病に漢方

2024/10/9
指定難病の一つである「ベーチェット病」は
口内炎や陰部潰瘍が多発するとても厄介な難病です。

基本的には、自分の免疫システムが関与する全身の慢性的な炎症が病態なのですが、なぜ・どうしてベーチェット病が発症し、どうすれば根本的に治るのかは現在もまだ研究が続けられています。

眼にも症状が出現することがあり、最悪の場合は失明に至ります。
眼の前側の部分の炎症は虹彩毛様体炎、眼の後側の部分の炎症は網膜脈絡膜炎という形で症状が現れます。

皮膚の炎症を生じる場合もあり、結節性紅斑という皮膚病によく似た皮疹や、ニキビが多発したりします。

罹患されている方は日本で約2万人ていどであり、決して頻度の多い疾患ではないのですが、ビジュアル的にとても特徴的なので皮膚科や膠原病科の教科書や授業では必ず勉強することになります。

さて、温清飲(うんせいいん)という漢方薬がありまして、この漢方薬は黄連解毒湯(おうれんげどくとう)四物湯(しもつとう)を合体させた漢方薬なのですが、温清飲が効きやすい人というのは「口内炎や陰部潰瘍を繰り返し発症する人」なのです。まさしくベーチェット病!ということになるわけですが、実際に臨床研究でもベーチェット病に対する温清飲の有効性が確認されています。

ちなみに黄連解毒湯は抗炎症・抗菌作用に特化した漢方薬です。四物湯は身体の材料の補給のような漢方薬で、乾燥肌で色つやの悪い人や貧血、冷え症、しもやけになりやすい人に適した漢方薬です。この2つを合体させるとベーチェット病に効くのですから不思議ですね。

ベーチェット病はシルクロード周辺地域に発症者が多いことが知られています。最初に報告されたのは1930年代でした。トルコのベーチェット先生が報告したので「ベーチェット病」というわけです。

しかし、どうやらヒポクラテスの書物のなかにもベーチェット病らしき疾患についての記載があるようなのでかなり大昔から存在する疾患なのかもしれないです。大昔の中国でも、当然ベーチェット病の人はいたのでしょうし、当時の医師たちが苦心して治療法を開発した…それが温清飲なのかもしれませんね。

ベーチェット病は真の病態も根本的な治療法も確立されていない難病ですが、漢方医学的視点から研究していくともしかしたら新たな病態や画期的な治療法がみつかるかもしれません。まぁそういうことを妄想したりして我々医師は研究に打ち込んでみたりするのです。


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寝ていて夜中に脚が攣るのは…

2024/8/28
ツムラの68番!
と言えば、漢方薬の名前は覚えていない人でも知っている“こむら返り”の薬ですね。

ツムラの68番は芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という漢方薬です。
芍薬と甘草という2種類の生薬で作られています。非常に即効性のある漢方薬なので、こむら返りが起きたらすぐに内服するとたちどころに症状が治まります。

芍薬甘草湯はこむら返りに限定された薬ではなく、横紋筋であれ平滑筋であれ、筋肉の異常な収縮を鎮める漢方薬です。
例えば胃痙攣にも使用しますし、しゃっくりに効く場合もあります。使い方を理解すればとても有能な漢方薬です。
そのため、漢方専門医でなくとも臨床的にはとてもよく使用されています。

さて、芍薬甘草湯は確かにこむら返りに効くのですが、発作が起きた時に使用する薬ですので、そもそもこむら返りが起こらないようにする予防的な効果は持っていません。毎日毎晩のようにこむら返りを起こしては芍薬甘草湯を内服する…という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そんな方は是非とも「なぜ夜中に脚が攣ってしまうのか?」という問いに向き合っていただきたいと思います。

実は、常習的なこむら返りに対する根治的治療として、駆瘀血剤に分類される漢方薬が使用されます。桂枝茯苓丸とか通導散とか。
つまり、こむら返りの多くに瘀血という末梢血流障害という病態が関与していることが推察されます。

瘀血に対処するだけでこむら返りを抑制できる場合もありますが、個人的な経験ではさらにもう一工夫することが多いです。
特殊なことをするわけではなく、体を温める作用がある漢方薬を使用するのです。

夜中のこむら返りは、1日負荷がかかった腓腹筋の血流とリンパ流が停滞し、さらに気温の低下(あるいは冷房による冷え)によって末梢循環障害に拍車がかかることで筋肉が凝りやすくなってしまっているのではないかと感じています。
漢方薬としては当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)という漢方薬を個人的には多用しています。
この漢方薬は”しもやけ”や冷えによる頭痛、腰痛、腹痛などの疼痛に対して使用する漢方薬ですが、要するに身体を温めつつ末梢血液循環を改善してくれる漢方薬です。漢方の作用を理解すれば応用の幅も広がるというわけです。

また、最近では夜に装着するストッキングも市販されているようなのでそういったものを使用するのも良いかもしれません。


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残暑お見舞い申し上げます

2024/8/16
気が付いたらお盆が過ぎてしまいました。

今年はお盆に台風がやって来ましたが、低気圧の影響をうける方にとってはいい迷惑だったのではないでしょうか?
東洋医学における「水毒」という体質の方の診察をしているといろいろなお話を聞くことができて大変興味深いです。水毒の方は体内で水の偏り(偏在)を生じている体質の方です。体内の水も気圧の影響を受けて膨らんだり縮んだりするので(PV=一定というやつです)、台風のせいで体調を崩したりされます。
興味深い点は、台風が発生したときに不調になる方と、台風がある程度の位置にあるときに不調になる方と、台風が通り過ぎるときに不調になる方と…人によってそれぞれ不調になるときの台風の位置が異なるのです。もしかするとこの研究をすると何か面白い発見があるかもしれませんね。

水毒体質のかたの治療には五苓散(ごれいさん)という漢方薬を使用するのが常套手段です。五苓散の優れているところは、余分な水は尿として体外に捨てる一方で、不足しているところには水を分配して水の偏在を是正し、しかも内服し続けていても脱水症を起こすことはないという点です。ああなんて素晴らしい漢方薬なんでしょう。ノーリスクハイリターンではありませんか。

で…多くの場合において五苓散で問題が解決するのですが、時には五苓散だけでは効果が不十分ということがあります。

例えば「五苓散は二日酔い予防に効果的である」とご存知の方が多いのですが、実際に飲酒前後に内服してもあまり効果を得られないという方もいらっしゃいます。そういった方には茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)という漢方薬をご紹介しています。

茵蔯五苓散は、五苓散に茵蔯蒿(いんちんこう)という生薬が追加されているものですが、茵蔯蒿が肝機能を高めることでアルコールの分解(解毒?)を早めてくれる場合があります。体質的に合う方であれば、五苓散よりも茵蔯五苓散の方が二日酔い対策に効果的です。

また、今年のように異常に暑い夏には冷たい飲み物をがぶ飲みしてしまい、胃腸が冷えて消化不良で下痢になってしまう方も多いのではないかと思います。そういった方に対して六君子湯や人参湯、大建中湯などのスター級漢方薬を使用しても症状が改善されない場合があるのですが、胃苓湯(いれいとう)という漢方薬を使用すると症状がみるみる改善される場合があります。

胃苓湯は平胃散(へいいさん)という漢方薬と五苓散を合体させた漢方薬ですが、胃腸機能の低下による消化不良と水毒から生じる下痢には効果的です。保険診療上の適応病名が微妙に限定的なのでやや使いづらい印象がありますが、副作用が出にくく優秀な漢方薬です。

まだまだ暑さは続きます。日本の夏は暑さと湿気が合体した「湿熱」という環境病態を起こします。保険診療で使用する漢方薬は、湿熱の治療に適したものがそれほど多くないため、治療がうまくいかないことが多々あります。病気にならないよう、体調管理に気を付けることが重要だなと、夏が来るたびに毎年思っているような気がします。


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なにをやっても治らなかった湿疹

2024/7/18
漢方薬は時として予期しない効果を発揮することがあります。

東洋医学では体の組織すべてが連動していると考えていますし、肉体と精神も別々のものではなく一体のものであると考えています。
そのため、心身のある問題を解決することで想定外の部分までも治ってしまうことがあるのです。

更年期障害によるホットフラッシュやイライラをご相談いただいたある女性の方がいらっしゃいました。漢方医学的には瘀血という血の巡りが悪い状態(微小血液循環不良)であり、足の冷えや顔の火照り、のぼせなどの症状を認めました。

イライラしやすい状態は交感神経が興奮している状態であり、自律神経失調状態の一種ですが、東洋医学的には肝気鬱結と考えることが多い状況です。

こういった更年期の典型的な症状に対して、加味逍遙散(かみしょうようさん)という漢方薬が頻用されます。加味逍遙散は、ストレス緩和の柴胡や、血流を改善する当帰、牡丹皮などの生薬に加えて、抗炎症あるいは熱を冷ます作用のある山梔子という生薬を含んでいます。

今回ご相談いただいた患者さんも、加味逍遙散を内服してホットフラッシュ症状がだいぶ治まりましたが、ホットフラッシュが改善したことよりも頭皮の湿疹が治ったことに感謝されました。

診察のときには伺っていなかったのですが、もう何年間も頭皮にできた湿疹でお悩みだったそうです。あちこちの皮膚科に通院してあれこれ治療しても治らずに諦めていたのだとか…。そんな湿疹が、漢方薬を内服してひと月ほどですっかり治ってしまったので、驚きとともに感謝してくださいました。

今回の頭部の慢性湿疹ですが、瘀血という病態のため下半身は冷えて上半身には熱がこもることで生じていたと考えられます。

加味逍遙散に含まれる当帰や牡丹皮によって微小血液循環が改善したことで身体全体としての血液循環の改善とともに熱の循環も改善しました。そして山梔子には抗炎症作用がありますので、こちらも湿疹に効いたというわけです。

東洋医学では、皮疹はなんらかの毒素や有害物質を皮膚を通して体外に排出するための反応であると考えます。

今回の患者さんの場合には、頭部に溜まっていた熱と血液中の有害物質を加味逍遙散で頭部以外の場所(おそらく便)から排出できるようになったため湿疹が軽快したと考えられます。

漢方医学を学んでいると、常にマクロな視点を持ち続けることの重要性を痛感します。


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「飲み込むことがコワい」

2024/6/26
食べ物や飲み物を飲み込む「嚥下」は、半分は意識的に、半分は無意識的に制御されている筋肉運動です。

みなさんも一度はうっかり喉に何かを詰まらせた経験があるかもしれませんが、食べ物が気道に入ってしまうと窒息してしまい命の危機です。
(食べ物が通る食道と、空気が通る気道の入り口は喉のあたりですぐ隣り合っています)

「飲み込む」という行為は意識的、無意識的に限らず1日の中で何度も何度もおこなわれている行為であるため、一度窒息という経験をしてしまうとトラウマになってしまいがちです。

飲み込むことがトラウマになってしまうと、飲み物を飲んだり、食事をすることに強い恐怖心が生まれてしまいます。そうなると毎日生きるために食事をしなければならないことに対して恐怖や葛藤が生まれてしまいます。

というわけでそのような「飲み込むことへの恐怖心」をご相談いただくことがあります。

一般的には精神療法を行ったりするのかもしれませんが、独りで悩みと苦痛を抱えながらなんとか毎日生きているという人もけっこういらっしゃるようです。

トラウマやPTSDには「神田橋処方」と言われる漢方薬の処方パターンが有名なのですが、飲み込みに対する恐怖の場合には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)という漢方薬をまず最初に使用しています。

半夏厚朴湯は、不安による嚥下困難、のどにいつも何か詰まっているような感覚(ヒステリー球)に対する処方として有名です。つまり半夏厚朴湯は精神的緊張によるのど周囲の筋肉のこわばりを緩めてくれるように作用するのです。

飲み込みに対する恐怖に対して半夏厚朴湯を使用すると、抗不安作用による精神的緊張の緩和と、嚥下に関する筋肉の余計な緊張を緩めてくれるので徐々に飲み込みがスムーズになっていきます。

そうすると飲み込むことに対して徐々に慣れと安心感が生じてきます。なんとか元の生活に戻れるようになっていきます。

もちろん半夏厚朴湯が効かない場合もありますし、半夏厚朴湯だけでは完全には症状が改善しない場合もあります。

その場合には「理気作用」を持つほかの漢方薬と半夏厚朴湯を併用することでなんとか精神的・肉体的緊張を軽減できるようあの手この手を尽くしていくことになります。


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