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(ホラーじゃないよ)「血の道症」

2022/10/30
「血の道症」という言葉を聞いたことがありますか?

文字だけみるとなんだかサスペンスのようなホラーのようなおどろおどろしい病気のような印象を受けるかもしれませんが…

月経の前後ではホルモンバランスが大きく変化するため、女性の体にはいろいろな症状が現れることがあります。女性のホルモンバランスの変動による体調の変化のことを「血の道症」と呼んでいるのです。

東洋医学には「気血水理論」という独自の医学理論がありますが、文字通り、血の道症とは「血(けつ)」の異常が中心の病態であることがわかります。とはいえ、女性ホルモンの変動は女性の一生涯の大半に大きな影響を与えるため、血の道症とは女性の年齢による生理的変化そのものとも言うことができます。

さて、生理前になると顔に吹き出物ができたり、便秘になったり、イライラしやすくなる方が多いと思われます。

西洋医学的に薬物治療をおこなう場合、それぞれの症状に対して1つずつ薬を使うことになるため、これだけでも3種類の薬が必要になってしまいます。あるいはピルを処方されるかもしれませんが、ピルとは人工的に体を妊娠中のホルモン状態にすることで月経を止める(または月経をコントロールする)治療方法なので、東洋医学的には不自然で悪影響が懸念される治療法です。

一方、漢方薬は総合的に体のバランスをとるように設計されているため、これらの症状も1種類の薬で治療が可能と思われます。
吹き出物や便秘は気血水理論では「瘀血(おけつ)」の症状と考えられます。イライラする症状は、気の巡りの異常(気逆)が生じていると考えられます。やや専門的な話となりますが、「血(けつ)」の流通や総量は、東洋医学でいう「肝」という生理機能が調節しています。「肝は蔵血の臓」と言って表現しているのです。そして、「肝」の機能には交感神経を中心とした自律神経のコントロールも一部含まれています。イライラするというのは、交感神経が昂っている状態であり(戦闘モードですね)、本来の気の巡りのバランスが崩れた状態(気逆)です。

月経というのは女性ホルモンの大きな変動でした。生理の時に子宮内膜に経血が溜まる状態はまさに生理的な瘀血の状態ですが、血のコントロールに関わっている肝もその調節に関与しているわけです。肝に負担がかかって、肝がオーバーヒートするようなイメージになると、肝気がたかぶった状態となり、気のコントロールに影響が出るため気逆の症状としてイライラすることになるのです。

さて、そんな時には漢方薬が有効なわけですが、まずは加味逍遙散桂枝茯苓丸桃核承気湯などが候補となります。これらの漢方薬はいずれも「瘀血」の病態に使用される漢方薬です。さらに患者様の体力や症状の強さに応じて薬を絞っていきます。

加味逍遙散はやや虚弱なかた向きで、瘀血の他に肝気鬱結(肝気の昂り)に力点を置いている漢方薬です。

桂枝茯苓丸は瘀血の治療薬のなかでもっともスタンダードな漢方薬です。ヨクイニンを加えるとニキビや吹き出物により効果的になりますが、子宮筋腫の腫脹の場合などにも使用されます。

桃核承気湯はかなり実証向きの薬です。瘀血に加えて気逆の症状が強い状態によく使用されます。厳密には陽明病期であり太陽蓄血証などと言うのですが一般の方はそこまで理解しておかなくてもよいでしょう。

これらの3種類の瘀血治療薬を中心に治療を考えていくのですが、1種類の漢方薬で十分に症状が改善しない場合には、複数の漢方薬を併用することもありますし、今回ご紹介していない漢方薬もまだまだたくさんあります。

「血の道症」とは女性の生涯の大半に関わる問題でした。更年期障害や、閉経後症候群もまた血の道症と考えられるため今回ご紹介した漢方薬は幅広い年代の方に使用されています。


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感染が治ったあとも咳が出る

2022/10/12
寒さとともに乾燥の季節がやってきました。

秋~冬になると喘息などの呼吸器疾患が悪化しやすくなります。これは、冷たい空気や乾燥した空気が気道を刺激し、気管支の痙攣や狭窄が生じるため、咳が出たり呼吸がしにくくなるためです。

実はカゼやインフルエンザ、コロナなどのウイルス性呼吸器感染症が治ったあとにも気道が過敏な状態が続き、これと同じような状態になることが知られています。感染症は治ったはずなのに何カ月も咳が出て苦しくなる状態を「感染後咳嗽」などと言います。ひと昔前までは「気のせい」で片づけられていたのですが、最近になり疾患の概念として確立したようです。

感染後咳嗽(または遷延性咳嗽)は西洋医学が苦手とする症状の1つです。
西洋医学としては咳止め、去痰剤、気道拡張剤くらいしか治療方法がなく、いずれも対症療法に過ぎないためです。さらに付け足すと、西洋薬の多くが体を「渇く」方向へ導いてしまうため、薬の効果が切れると症状は余計に悪化してしまう場合があります。それでも回復力が十分にある人の場合には、症状を抑えて時間を稼ぐことで身体が自力で元の状態に戻してくれるのです。

一方、漢方では昔から結核などの長患いや病後の虚労・衰弱など、病気によって消耗してしまった状態から回復するための治療薬がさまざまあります。コロナ後遺症の治療にも漢方薬が活用されています。とはいえやはりお一人お一人の体質と病態を考慮したうえで薬を選ばなければなりません。

感染後咳嗽でもっとも処方数が多いとすれば麦門冬湯(ばくもんどうとう)ではないかと思います。
麦門冬湯には「漢方のネブライザー」という異名があります。つまり、麦門冬湯を服用することで(気道を含めて)身体に潤いをもたらすことで咳を止めてくれるのです。
麦門冬湯が効きやすいのは「口やのどの渇きがあり、冷たい空気や乾いた空気によって発作的に咳が出て、しかも咳が出始めるとしばらく続いて吐きそうになったり顔が真っ赤になったりする」ような咳です。基本的に乾いた咳であり、痰はほとんどありません。やや長文ですがイメージしやすいでしょうか?

こういう状態は感染後咳嗽に多いのですが、さらに麦門冬湯をうまく使うポイントは「胃腸が弱っているかどうか」を確認することにあります。「ふだんよりやや食欲がない」とかその程度でよいので、胃腸が弱っていることを確認することで麦門冬湯を効果的に使用することができます。コロナのような重い感染症であったり、結核のような長患いの後には胃腸が弱っていることが多くあります。胃腸が弱っていると食事をしてそこからエネルギーを作り出すことがうまくできなくなるのと同時に、身体に潤いをもたらす津液(しんえき)の生産も衰えてしまいます。

そうすると、肺に潤いが供給されなくなるため熱がこもり、その反映として喉や口の乾燥感という症状が現れます。肺は呼吸によって大気を吸い込みますが、同じように口から肺へと気が流れ込みます。しかし、肺に熱がこもっていると肺に降りてきた気が押し返されて逆流します。こうして乾いた咳やしゃっくりなどの症状が現れます。

この状態を治すのが麦門冬湯です。
面白いことに麦門冬湯という漢方薬には咳止めとしての生薬は1種類しか含まれていないのに、胃腸を丈夫にするための生薬は4種類も含まれています。こんなところからも、漢方と西洋医学とでは病気や症状をどう捉えてどのように治そうかという姿勢のちがいがわかりますね。


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