歳をとると誰もが直面するのが尿のトラブルです。
老化を感じるもっとも日常的な症状ではないでしょうか?
特に、夜にトイレで何度も目が覚めてしまうのは膀胱が尿をためておく力が衰えてしまうためです。
そうなってくると、排尿に関連する筋肉も衰えて来るため勢いが悪くなったり、最後まで出し切る力がなくなったり、ついうっかり出てしまったり…と、自分が情けなく感じてしまいますます「歳をとったな…」と落ち込んでしまいます。
男性の場合には、前立腺の肥大も加わってしまうため「思うように出したくても出せない」ことも増えていきます。こうして心身ともに衰えていくと男性更年期障害と言われる範疇に入っていきます。
漢方では、こういった老化に伴う尿トラブルを「腎(じん)」の問題で生じると考えます。
漢方における「腎」とは、臓器としての「腎臓」にとどまらずに泌尿器系や生殖系に関連する部分まで含まれています。
そもそも「腎」とは「生まれ持った生命エネルギー」と表現される機能のことを指します。診療の際に患者さんに説明するときには「生まれ持ったエンジン」と説明することが多いです。群馬県は一人一台自動車を所有する車社会なので、エンジンに例えるとご理解していただきやすいのです。
老化によって腎(エンジン)が衰えてくると、一つには尿トラブル(エンジンオイル漏れ?)として症状が出現してきますし、また、馬力の衰えとして足腰の衰えが目立つようになります。
老化に伴う下半身を中心とした諸症状にたいして、漢方では「腎気丸(じんきがん)」と呼ばれるグループの漢方薬で治療をします。
まず、上記の症状に加えて「冷え」があるか「渇き」があるかで使用する薬が異なってきます。
足腰の衰えに尿漏れや頻尿の症状があり、口の渇きや手足のほてりを感じる場合には「六味丸(ろくみがん)」という漢方薬が候補となります。
老化によって「潤い」がなくなってきてしまい、熱がこもりがちな状況です。腎の衰えと関連して耳鳴りや視力の減退、頭重感などの症状も重なってきます。
名前の通り熟地黄(じゅくじおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、沢瀉(たくしゃ)の6つの生薬から構成されています。
老化した場合についてばかり説明してきましたが、生まれつきエンジンのパワーが弱い場合にも使えますので、発育の悪いお子さんに使用することもあります。
足腰の冷えと衰え、尿漏れや頻尿、そして夜何度もトイレで目が覚めてしまうような場合には「八味地黄丸(はちみじおうがん)」という薬が候補となります。八味丸(はちみがん)とか腎気丸(じんきがん)などと呼ぶこともあります。
こちらも名前の通り、8つの生薬から構成されています。六味丸の6つに加えて体を温める作用のある桂皮(けいひ)と附子(ぶし)が加えられており、気・血・水すべてを補う薬味を兼ね備えています。
六味丸が渇きとほてりが主体だったのに対して、八味地黄丸は冷えが主体です。また、老化現象一般に対しても効果があるため、動脈硬化や高血圧、白内障、前立腺肥大症、坐骨神経痛や腰痛、認知症などにも使用します。
ところで「ウチダの八味丸」という看板を見かけたことはありませんか?
これは「ウチダ和漢薬」というメーカーさんが作っている漢方薬なのですが、昔からの「八味丸」と同じように丸薬(がんやく)として作成しているものです。
個人的にはこちらの方がエキス剤よりも効果が発揮されやすい印象がありますが、飲みやすさなどお好みで選んでいただければいいと思います。
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