境界型血糖と肥満の関係健康診断の結果を見て、「血糖値が少し高いですね」「HbA1cが上がってきていますね」と言われたことはありませんか?でも糖尿病と診断されたわけではない。「まだ薬も必要ないし、大丈夫でしょう」そう考えて、そのままにしている方も少なくありません。しかし、この「糖尿病になる一歩手前」の時期こそ、身体を立て直す大切なタイミングかもしれません。今回は、肥満と血糖値の関係について考えてみましょう。糖尿病は突然始まるわけではありません2型糖尿病の多くは、昨日まで正常だった血糖値が突然高くなるわけではありません。その何年も前から身体の中では変化が始まっています。特に重要なのが、「インスリン抵抗性」です。インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞へ取り込ませ、血糖値を下げる働きをしています。ところが内臓脂肪が増え、運動不足などが重なると、インスリンが効きにくい状態になってきます。すると身体は、「インスリンが効かないなら、もっとたくさん出そう」と頑張ります。そのため、血糖値がそれほど高くない段階でも、実は膵臓が大量のインスリンを分泌して血糖値をなんとか維持している場合があります。これが続き、やがて膵臓が十分に対応できなくなってくると、血糖値がさらに上昇し、2型糖尿病へと進んでいきます。「糖尿病になってから治療」だけが選択肢ではありませんここで大切なのは、糖尿病になる前の段階には、まだできることがたくさんあるということです。有名なDiabetes Prevention Program(DPP)という研究では、糖尿病になるリスクの高い人に、食事や運動による生活習慣改善を行いました。目標は、✓ 体重を約7%減らす ✓ 週150分以上身体を動かす というものでした。その結果、平均2.8年間の観察で、生活習慣改善群ではプラセボ群と比較して2型糖尿病の発症が58%少なくなりました。つまり、「まだ糖尿病ではない時期に体重と生活習慣を改善する」ことには、医学的にも大きな意味があるのです。では、大幅に体重を減らしたらどうなる?近年、この分野で興味深い研究結果が報告されました。GIP/GLP-1受容体作動薬である「チルゼパチド」を調べたSURMOUNT-1という研究です。この研究のうち、「肥満があり、さらに糖尿病前段階にある」1,032人について約3年間追跡した結果が報告されています。176週後の平均体重減少率は、投与量によって約12~20%でした。さらに興味深いのが糖尿病の発症です。2型糖尿病と診断された人は、チルゼパチド群1.3% VS プラセボ群13.3%でした。非常に大きな差です。ただし、この結果の解釈には注意が必要です。これは海外で行われた特定の条件下での臨床試験であり、「チルゼパチドを使えば誰でも糖尿病を予防できる」という意味ではありません。また、日本でマンジャロ(チルゼパチド)は「2型糖尿病」の治療薬として承認されており、糖尿病のない人の肥満治療を目的とした使用は承認された適応とは異なります。大切なのは「薬」よりも「いつ介入するか」この研究から私たちが考えたいのは、「マンジャロを使えばよい」という単純な話ではありません。むしろ重要なのは、「糖尿病になってから考える」のではなく、その前から肥満や代謝異常に目を向けるということです。たとえば、✓ 以前より体重が10kg増えた ✓ お腹まわりが大きくなった ✓ HbA1cが年々上昇している ✓ 血圧も高くなってきた ✓ 中性脂肪が高い ✓ 脂肪肝を指摘された このような変化が重なっているなら、「まだ糖尿病ではないから大丈夫」と考えるより、一度生活習慣や体重を見直してみる価値があります。肥満治療の第一歩は「身体を知ること」もちろん、血糖値が少し高い人すべてに薬が必要なわけではありません。まず大切なのは食事、運動、睡眠などの生活習慣です。実際、先ほど紹介したDPP研究では、薬を使わなくても生活習慣の改善によって糖尿病発症リスクを大きく減らすことができました。一方、生活習慣を改善しても体重がなかなか減らない人や、肥満に伴う健康問題がすでに生じている人では、医学的な肥満治療について検討する場合もあります。当院では単に、「何kg痩せたいですか?」ということだけではなく、血糖・血圧・脂質・体重・生活習慣などを一緒に考えながら、将来の生活習慣病を予防するために何ができるのかを考えていきます。健康診断で「少し血糖値が高い」と言われたとき。それは怖がる必要のある数字ではありません。むしろ、「今なら身体を変えられるかもしれませんよ」という身体からのサインとして、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。いつの日も こころ楽しく すこやかに
でも糖尿病と診断されたわけではない。「まだ薬も必要ないし、大丈夫でしょう」そう考えて、そのままにしている方も少なくありません。
今回は、肥満と血糖値の関係について考えてみましょう。
糖尿病は突然始まるわけではありません
特に重要なのが、「インスリン抵抗性」です。
インスリンは血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞へ取り込ませ、血糖値を下げる働きをしています。ところが内臓脂肪が増え、運動不足などが重なると、インスリンが効きにくい状態になってきます。すると身体は、「インスリンが効かないなら、もっとたくさん出そう」と頑張ります。
そのため、血糖値がそれほど高くない段階でも、実は膵臓が大量のインスリンを分泌して血糖値をなんとか維持している場合があります。これが続き、やがて膵臓が十分に対応できなくなってくると、血糖値がさらに上昇し、2型糖尿病へと進んでいきます。
「糖尿病になってから治療」だけが選択肢ではありません
有名なDiabetes Prevention Program(DPP)という研究では、糖尿病になるリスクの高い人に、食事や運動による生活習慣改善を行いました。
目標は、✓ 体重を約7%減らす ✓ 週150分以上身体を動かす というものでした。その結果、平均2.8年間の観察で、生活習慣改善群ではプラセボ群と比較して2型糖尿病の発症が58%少なくなりました。
つまり、「まだ糖尿病ではない時期に体重と生活習慣を改善する」ことには、医学的にも大きな意味があるのです。
近年、この分野で興味深い研究結果が報告されました。GIP/GLP-1受容体作動薬である「チルゼパチド」を調べたSURMOUNT-1という研究です。
ただし、この結果の解釈には注意が必要です。
これは海外で行われた特定の条件下での臨床試験であり、「チルゼパチドを使えば誰でも糖尿病を予防できる」という意味ではありません。また、日本でマンジャロ(チルゼパチド)は「2型糖尿病」の治療薬として承認されており、糖尿病のない人の肥満治療を目的とした使用は承認された適応とは異なります。
大切なのは「薬」よりも「いつ介入するか」
むしろ重要なのは、「糖尿病になってから考える」のではなく、その前から肥満や代謝異常に目を向けるということです。
たとえば、✓ 以前より体重が10kg増えた ✓ お腹まわりが大きくなった ✓ HbA1cが年々上昇している ✓ 血圧も高くなってきた ✓ 中性脂肪が高い ✓ 脂肪肝を指摘された このような変化が重なっているなら、「まだ糖尿病ではないから大丈夫」と考えるより、一度生活習慣や体重を見直してみる価値があります。
肥満治療の第一歩は「身体を知ること」
まず大切なのは食事、運動、睡眠などの生活習慣です。
実際、先ほど紹介したDPP研究では、薬を使わなくても生活習慣の改善によって糖尿病発症リスクを大きく減らすことができました。一方、生活習慣を改善しても体重がなかなか減らない人や、肥満に伴う健康問題がすでに生じている人では、医学的な肥満治療について検討する場合もあります。
それは怖がる必要のある数字ではありません。
むしろ、「今なら身体を変えられるかもしれませんよ」という身体からのサインとして、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
いつの日も こころ楽しく すこやかに