健康診断を受けるたびに、「血圧が高くなっていますね」「血糖値も少し高いですね」「中性脂肪も高いですね」と言われる項目が、少しずつ増えていませんか?血圧が高ければ「高血圧」。血糖が高ければ「糖尿病」。コレステロールや中性脂肪が高ければ「脂質異常症」。それぞれ別の病気ですから、必要に応じて適切な治療を行うことはもちろん大切です。でも、ここで一度こんなことを考えてみてください。「どうしていくつもの異常が同じ時期に出てきたのだろう?」実は、それぞれ別々に見える異常の背景に、一つの共通した問題が隠れていることがあります。たとえば、ある40代の男性を想像してみましょう若い頃は体重65kgだった男性が、仕事が忙しくなり、運動する時間が減って、現在80kgになったとします。健康診断では、血圧 145/90mmHg、HbA1c 6.1%、中性脂肪 220mg/dL、そして脂肪肝。すると、「血圧を下げましょう」「血糖値に注意しましょう」「中性脂肪も高いですね」「肝臓にも脂肪があります」と、それぞれの異常について説明されます。もちろん、それは間違いではありません。しかし、この人の身体の中で、4つの病気が偶然同時に始まったのでしょうか?必ずしもそうではありません。■正体は「内臓脂肪」肥満には、皮下脂肪が多いタイプと、内臓の周囲に脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」があります。内臓脂肪が増えてくると、単にお腹が大きくなるだけではありません。脂肪組織は、エネルギーを蓄えているだけの倉庫ではなく、さまざまな生理活性物質を分泌する組織でもあります。内臓脂肪が過剰になると、✓ インスリンが効きにくくなる✓ 血糖が上がりやすくなる✓ 中性脂肪が増えやすくなる✓ 血圧が上がりやすくなる✓ 脂肪肝が起こりやすくなるなど、身体のいろいろな場所に影響が現れます。これが、いわゆるメタボリックシンドロームを考える基本的な考え方です。■「インスリン抵抗性」を理解しよう特に重要なのが、「インスリン抵抗性」です。インスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉などへ取り込ませるために重要なホルモンです。ところが内臓脂肪が増え、身体活動が低下するなどすると、インスリンが効きにくくなることがあります。すると身体は、「効きにくいなら、もっとインスリンを出そう」とします。最初のうちは膵臓が頑張るため、血糖値がそれほど高くならないこともあります。しかし、その裏側ではすでに代謝のバランスが崩れ始めている場合があります。そして長い時間をかけて、肥満↓インスリン抵抗性↓高血糖・脂質異常・高血圧・脂肪肝という、複数の問題が表面に現れてくるのです。■「血圧の薬を飲めば体重も減る」わけではありませんここで少し視点を変えてみましょう。高血圧になれば、必要に応じて降圧薬を使います。LDLコレステロールが高く、心血管リスクが高ければ、脂質を下げる薬が必要になることがあります。糖尿病になれば、血糖を適切に管理することも重要です。これらの治療によって心筋梗塞や脳卒中などを予防することには、大切な意味があります。ただし、血圧を下げても、それだけで内臓脂肪がなくなるわけではありません。そこで、「下流に現れた数字を治療する」ことと同時に、「その上流にある肥満や生活習慣にも介入する」という二つの方向から考える必要があります。■体重を減らすと、一つだけではなく複数の数字が動く肥満に対する大規模な臨床試験では、体重減少に伴って血糖だけでなく、血圧や脂質など複数の代謝指標が改善することが報告されています。たとえばGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドを検討したSURMOUNT-1試験では、糖尿病のない肥満または過体重の人を対象に72週間治療したところ、大きな体重減少とともに心血管・代謝関連指標にも改善が認められました。またGLP-1受容体作動薬セマグルチドを検討したSTEP 1試験でも、体重減少とともに血圧や脂質などの改善が報告されています。もちろん、「薬で痩せれば全部の病気が治る」という意味ではありません。しかし、複数の代謝異常が肥満という共通した背景を持つ場合、体重に介入することによって複数の問題が同じ方向に動く可能性がある、という点は重要です。では、薬で痩せれば降圧薬もコレステロールの薬もいらないのでしょうか?これも違います。高血圧、糖尿病、脂質異常症には、それぞれ治療目標があります。すでに動脈硬化が進んでいる人や心筋梗塞・脳卒中のリスクが高い人では、適切な薬物治療を先送りすることはむしろ危険です。また、肥満治療薬にも副作用や使用できない場合があります。大切なのは、「AかBか」ではなく「AもBも必要かもしれない」と考えることです。血圧は血圧として適切に治療する、血糖は血糖として管理する。そして同時に、「なぜこれらの異常が起きたのか?」という上流にも目を向けることが重要なのだと思います。■健康診断の結果を「一枚の絵」として見てみる健康診断の結果が届いたら、異常値を一つずつ見るだけではなく、全体を眺めてみてください。✓ ここ数年で体重が増えた✓ 腹囲が大きくなった✓ 血圧が上がってきた✓ HbA1cも上昇してきた✓ 中性脂肪が高い✓ 脂肪肝もあるもし、これらが一緒に起きているのであれば、それぞれが独立した問題ではなく「内臓脂肪や代謝異常」という一枚の絵として考えられるかもしれません。■「何の薬を飲むか」の前に、「なぜこうなったか」を考える当院では、単に「何kg痩せたいですか?」だけではなく、体重、腹囲、血圧、血糖、脂質、肝機能、生活習慣などを含めて身体全体を考えていきます。基本となるのは、もちろん食事と運動です。そのうえで、肥満による健康障害がある場合などには、状態に応じて薬物療法について相談することもあります。血圧・血糖・中性脂肪・脂肪肝…一見バラバラに見える健康診断の異常値。でも身体の中では、すべてがつながっていることがあります。だからこそ、「この数字をどう下げよう?」だけではなく、「なぜこの数字が上がったのだろう?」と考えてみる。そこから本当の生活習慣病対策が始まるのではないでしょうか。いつの日も こころ楽しく すこやかに WEB予約はこちらから (参考文献)・N Engl J Med 2022;387:205-216・N Engl J Med 2021;384:989-1002
「血圧が高くなっていますね」
「血糖値も少し高いですね」
「中性脂肪も高いですね」
と言われる項目が、少しずつ増えていませんか?
血圧が高ければ「高血圧」。
血糖が高ければ「糖尿病」。
コレステロールや中性脂肪が高ければ「脂質異常症」。
それぞれ別の病気ですから、必要に応じて適切な治療を行うことはもちろん大切です。
でも、ここで一度こんなことを考えてみてください。
「どうしていくつもの異常が同じ時期に出てきたのだろう?」
実は、それぞれ別々に見える異常の背景に、一つの共通した問題が隠れていることがあります。
たとえば、ある40代の男性を想像してみましょう
若い頃は体重65kgだった男性が、仕事が忙しくなり、運動する時間が減って、現在80kgになったとします。
健康診断では、血圧 145/90mmHg、HbA1c 6.1%、中性脂肪 220mg/dL、そして脂肪肝。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、この人の身体の中で、4つの病気が偶然同時に始まったのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
内臓脂肪が増えてくると、単にお腹が大きくなるだけではありません。脂肪組織は、エネルギーを蓄えているだけの倉庫ではなく、さまざまな生理活性物質を分泌する組織でもあります。
内臓脂肪が過剰になると、
✓ インスリンが効きにくくなる
✓ 血糖が上がりやすくなる
✓ 中性脂肪が増えやすくなる
✓ 血圧が上がりやすくなる
✓ 脂肪肝が起こりやすくなる
など、身体のいろいろな場所に影響が現れます。
これが、いわゆるメタボリックシンドロームを考える基本的な考え方です。
■「インスリン抵抗性」を理解しよう
インスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉などへ取り込ませるために重要なホルモンです。
ところが内臓脂肪が増え、身体活動が低下するなどすると、インスリンが効きにくくなることがあります。
すると身体は、「効きにくいなら、もっとインスリンを出そう」とします。
最初のうちは膵臓が頑張るため、血糖値がそれほど高くならないこともあります。
しかし、その裏側ではすでに代謝のバランスが崩れ始めている場合があります。
そして長い時間をかけて、
肥満
↓
インスリン抵抗性
↓
高血糖・脂質異常・高血圧・脂肪肝
という、複数の問題が表面に現れてくるのです。
■「血圧の薬を飲めば体重も減る」わけではありません
高血圧になれば、必要に応じて降圧薬を使います。LDLコレステロールが高く、心血管リスクが高ければ、脂質を下げる薬が必要になることがあります。糖尿病になれば、血糖を適切に管理することも重要です。これらの治療によって心筋梗塞や脳卒中などを予防することには、大切な意味があります。
ただし、血圧を下げても、それだけで内臓脂肪がなくなるわけではありません。
そこで、「下流に現れた数字を治療する」ことと同時に、「その上流にある肥満や生活習慣にも介入する」という二つの方向から考える必要があります。
■体重を減らすと、一つだけではなく複数の数字が動く
たとえばGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドを検討したSURMOUNT-1試験では、糖尿病のない肥満または過体重の人を対象に72週間治療したところ、大きな体重減少とともに心血管・代謝関連指標にも改善が認められました。またGLP-1受容体作動薬セマグルチドを検討したSTEP 1試験でも、体重減少とともに血圧や脂質などの改善が報告されています。
しかし、複数の代謝異常が肥満という共通した背景を持つ場合、体重に介入することによって複数の問題が同じ方向に動く可能性がある、という点は重要です。
これも違います。高血圧、糖尿病、脂質異常症には、それぞれ治療目標があります。
すでに動脈硬化が進んでいる人や心筋梗塞・脳卒中のリスクが高い人では、適切な薬物治療を先送りすることはむしろ危険です。
また、肥満治療薬にも副作用や使用できない場合があります。
大切なのは、「AかBか」ではなく「AもBも必要かもしれない」と考えることです。
そして同時に、「なぜこれらの異常が起きたのか?」という上流にも目を向けることが重要なのだと思います。
■健康診断の結果を「一枚の絵」として見てみる
✓ ここ数年で体重が増えた
✓ 腹囲が大きくなった
✓ 血圧が上がってきた
✓ HbA1cも上昇してきた
✓ 中性脂肪が高い
✓ 脂肪肝もある
もし、これらが一緒に起きているのであれば、それぞれが独立した問題ではなく「内臓脂肪や代謝異常」という一枚の絵として考えられるかもしれません。
■「何の薬を飲むか」の前に、「なぜこうなったか」を考える
基本となるのは、もちろん食事と運動です。そのうえで、肥満による健康障害がある場合などには、状態に応じて薬物療法について相談することもあります。
一見バラバラに見える健康診断の異常値。
でも身体の中では、すべてがつながっていることがあります。
だからこそ、「この数字をどう下げよう?」だけではなく、「なぜこの数字が上がったのだろう?」と考えてみる。
そこから本当の生活習慣病対策が始まるのではないでしょうか。
いつの日も こころ楽しく すこやかに