【主な参考文献】 ・Horii T, et al. Peptidoglycan-Like Components in Z-100, Extracted from Mycobacterium tuberculosis Strain Aoyama B, Increase IL-12p40 via NOD2. Journal of Immunology Research. 2022. ・Katsunuma K, et al. Z-100, extracted from Mycobacterium tuberculosis strain Aoyama B, promotes TNF-α production via NOD2-dependent NF-κB activation in RAW264.7 cells. Molecular Immunology. 2015. ・Emori Y, et al. Inhibition of human immunodeficiency virus type 1 replication by Z-100, an immunomodulator extracted from human-type tubercle bacilli, in macrophages. Journal of General Virology. 2004. ・Kobayashi M, et al. Z-100, a lipid-arabinomannan extracted from Mycobacterium tuberculosis, improves the resistance of thermally injured mice to herpes virus infections. Immunology Letters. 1994. ・Iwasaki A, Pillai PS. Innate immunity to influenza virus infection. Nature Reviews Immunology. 2014. ・Diamond MS, Kanneganti TD. Innate immunity: the first line of defense against SARS-CoV-2. Nature Immunology. 2022.
私たちの身体にウイルスが侵入したとき、最初に働く免疫は何でしょうか?
「抗体」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
もちろん抗体は重要です。
しかし、ウイルスが身体に入ってから抗体などによる獲得免疫が本格的に働くまで、身体が無防備になっているわけではありません。
その最前線で働いているのが、「自然免疫」です。
今回は、インフルエンザやCOVID-19と自然免疫との関係、そして当院で自由診療として取り扱っている「アンサー注射(Z-100)」について、現在分かっている研究結果と、まだ分かっていないことを整理してみましょう。
■私たちには「二段構え」の免疫システムがあります
人間の免疫システムは、大きく「自然免疫」と「獲得免疫」に分けて考えることができます。
自然免疫は、身体に侵入した病原体を素早く認識して反応する、いわば「初動部隊」です。マクロファージ、樹状細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞などが関係します。
一方、獲得免疫ではT細胞やB細胞などが働き、特定の病原体に対する抗体や免疫記憶を形成します。
つまりウイルス感染では、「自然免疫による初期防御→獲得免疫による、より特異的な防御」という連携が起こります。
■インフルエンザ感染の最前線でも自然免疫が働く
インフルエンザウイルスが気道の細胞へ感染すると、身体はウイルス由来のRNAなどを感知します。
そこで重要になるのが、「RIG-I」「TLR3」「TLR7」などの「パターン認識受容体」です。
ウイルスを感知すると、Ⅰ型・Ⅲ型インターフェロンなどを介した抗ウイルス反応が誘導されます。
さらにマクロファージやNK細胞なども働き、感染細胞の処理や、その後の獲得免疫の形成につながっていきます。
Nature Reviews Immunologyに掲載された総説でも、こうした自然免疫系がインフルエンザ感染初期の防御に重要であることが詳しくまとめられています。
■COVID-19でも「最初の自然免疫」が重要
SARS-CoV-2でも基本的な考え方は共通しています。
ウイルスが侵入すると、自然免疫系がウイルスを認識し、インターフェロンを中心とする抗ウイルス反応を開始します。
COVID-19研究で興味深いのは、「免疫は強ければ強いほどよい」わけではないということです。
感染初期に適切な抗ウイルス反応が起こることが重要である一方、時期や程度が不適切な炎症反応は、むしろ組織障害に関係する可能性があります。COVID-19の重症化とⅠ型インターフェロン応答の異常との関係も数多く研究されています。
したがって、「免疫力を上げればよい」という単純な表現より、「感染初期に適切な自然免疫応答が働くことが重要」と考える方が、現在の免疫学には近いでしょう。
■では「アンサー注射」とは?
アンサー皮下注20μgは、「ヒト型結核菌青山B株の熱水抽出物(Z-100)」を成分とする医療用医薬品です。
結核菌そのものを注射するわけではありません。
日本では現在、「放射線療法による白血球減少症」について承認されています。したがって、インフルエンザやCOVID-19の予防は承認された効能ではありません。ここは最初に明確にしておく必要があります。
■Z-100は自然免疫にどのように作用する?
ここからが興味深いところです。
■ヒト免疫細胞でも研究されています
さらに2022年には、Z-100についてマウス細胞だけでなく、ヒトCD14陽性細胞を用いた研究も報告されています。
Z-100刺激によって、IL-12p40、TNF-α、IL-1βなどの免疫調節に関係するサイトカイン産生の増加が観察されました。特にIL-12p40については、Z-100に含まれるペプチドグリカン様成分がNOD2を介して作用する可能性が示されています。
つまりZ-100は少なくとも基礎研究レベルでは、自然免疫系、とりわけマクロファージ系の反応を調節する作用を持つ可能性があります。
■NK細胞との関係は?
Z-100については動物実験で、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、NK細胞、NKT細胞などの変化を調べた研究もあります。NK細胞は「Natural Killer」という名前の通り、自然免疫に関係する重要な細胞です。ウイルスに感染した細胞などを認識して排除する働きを持っています。インフルエンザ感染においても、NK細胞は感染細胞の排除などに関与することが知られています。
したがって、マクロファージ、サイトカイン、NK細胞などを介した自然免疫ネットワークは、ウイルス感染を考えるうえで重要な研究領域です。
■Z-100には「抗ウイルス作用」の研究もある?
実はあります。
2004年にJournal of General Virologyに発表された研究では、ヒト単球由来マクロファージを用いた実験で、Z-100がHIV-1の複製を抑制しました。この実験ではZ-100によるIFN-β産生などが関係する可能性が報告されています。
さらに1994年には、熱傷によって免疫機能が低下したマウスを用いた実験で、Z-100投与によって単純ヘルペスウイルス感染に対する抵抗性が改善したことも報告されています。
つまり、Z-100とウイルス感染防御との関連を示唆する基礎研究・動物研究は存在します。
■ではアンサー注射でインフルエンザやCOVID-19を予防できる?
ここが最も重要なところです。
現時点では、アンサー注射によってインフルエンザやCOVID-19の発症が減少することを証明した、十分なヒト臨床試験は確認されていません。したがって、「アンサー注射を打てばインフルエンザにならない」「COVID-19を予防できる」とは言えません。
Z-100について分かっていることは、自然免疫に関係する細胞・シグナル・サイトカインへ作用することを示す基礎研究がある、ということです。
一方、その免疫調節作用が実際にインフルエンザやCOVID-19の発症予防につながるか、については、別の臨床研究が必要です。「生物学的に考えられること」と「患者さんで効果が証明されたこと」は分けて考えなければなりません。
■「免疫力アップ」という言葉にも注意
健康情報では、「免疫力を高める」という表現をよく目にします。
しかし医学的には、免疫は単純に強ければよいものではありません。
感染初期には適切な抗ウイルス応答が必要ですが、過剰な炎症反応は身体を傷つけることもあります。
大切なのは、免疫を無制限に強くすることではなく、必要なときに適切な免疫反応が起こることです。
その意味ではアンサー注射についても、「免疫力を強力にアップさせる注射」と表現するより、「自然免疫系に対する免疫調節作用が基礎研究で報告されている薬剤」と表現する方が正確でしょう。
■感染症対策の基本を忘れないでください
インフルエンザやCOVID-19対策では、手洗い・換気・十分な睡眠・栄養・基礎疾患の適切な管理・必要に応じたワクチン接種など、確立した予防策を基本として考えることが大切です。
アンサー注射を行ったから、こうした対策が不要になるわけではありません。
■「自然免疫」という身体本来の防御システムを考える
私たちの身体には、病原体が侵入した瞬間から働き始める精巧な防御システムがあります。
その一つが、自然免疫です。インフルエンザでもCOVID-19でも、自然免疫は感染初期の重要な防御機構です。
そしてアンサー(Z-100)については、NOD2、マクロファージ、IL-12、インターフェロン、NK細胞など、自然免疫に関係するさまざまな研究が行われてきました。
だからこそ、「アンサー注射がインフルエンザやCOVID-19を予防する」と結論づけるのではなく、自然免疫を調節する薬剤が呼吸器ウイルス感染防御にどのような意味を持つのか、という問いは、非常に興味深い研究テーマだと思います。
分かっていること。
まだ分かっていないこと。
その両方をきちんと区別しながら、新しい医学の可能性を考えていくことが大切です。
いつの日も こころ楽しく すこやかに
【主な参考文献】
・Horii T, et al. Peptidoglycan-Like Components in Z-100, Extracted from Mycobacterium tuberculosis Strain Aoyama B, Increase IL-12p40 via NOD2. Journal of Immunology Research. 2022.
・Katsunuma K, et al. Z-100, extracted from Mycobacterium tuberculosis strain Aoyama B, promotes TNF-α production via NOD2-dependent NF-κB activation in RAW264.7 cells. Molecular Immunology. 2015.
・Emori Y, et al. Inhibition of human immunodeficiency virus type 1 replication by Z-100, an immunomodulator extracted from human-type tubercle bacilli, in macrophages. Journal of General Virology. 2004.
・Kobayashi M, et al. Z-100, a lipid-arabinomannan extracted from Mycobacterium tuberculosis, improves the resistance of thermally injured mice to herpes virus infections. Immunology Letters. 1994.
・Iwasaki A, Pillai PS. Innate immunity to influenza virus infection. Nature Reviews Immunology. 2014.
・Diamond MS, Kanneganti TD. Innate immunity: the first line of defense against SARS-CoV-2. Nature Immunology. 2022.