「健康のために少し痩せましょう」健康診断などで、こんなことを言われた経験はありませんか?確かに体重を減らせば、血圧や血糖値、中性脂肪などが改善することがあります。でも、ここで一つ疑問が出てきます。「結局、痩せることで本当に病気は減るの?」血圧や血糖値が少し良くなるだけではなく、心筋梗塞や脳卒中といった重大な病気そのものを減らすことができるのでしょうか?実は近年、この疑問に対する非常に興味深い研究結果が報告されています。今回は「体重を減らす本当の意味」について、心臓や血管という視点から考えてみましょう。■肥満は「見た目」だけの問題ではありません肥満、とくに内臓脂肪が増えてくると、身体の中ではさまざまな変化が起こります。たとえば、✓ 血圧が上がる✓ インスリンが効きにくくなる✓ 血糖値が上昇する✓ 中性脂肪が増える✓ 慢性的な炎症が起こるなどです。これらはいずれも、長い時間をかけて心臓や血管に負担をかける可能性があります。つまり肥満を治療する本当の目的は「体重計の数字を減らすこと」ではなく「その先にある病気を防ぐこと」にあるはずです。■「よく痩せる薬」が登場しました。でも……近年、GLP-1という消化管ホルモンの働きを利用した薬が登場しました。その一つが「セマグルチド」です。日本では、肥満症治療薬として「ウゴービ」という名前で使用されています。これまでの臨床試験から、セマグルチドによって大きな体重減少が得られる場合があることが分かってきました。すると、次の疑問が出てきます。「体重は減る。でも、それで本当に心筋梗塞や脳卒中まで減るの?」この疑問を真正面から調べたのが「SELECT試験」です。■17,604人を調べたSELECT試験SELECT試験には、世界各国から17,604人が参加しました。対象となったのは、・45歳以上・BMI 27以上・糖尿病ではない・すでに心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈疾患などの心血管疾患があるという人たちです。つまり、単に「少し太っている健康な人」を調べた研究ではありません。もともと心血管疾患のリスクが非常に高い人たちを対象にした研究です。参加者を、「セマグルチド2.4mgを使用するグループ」と「プラセボを使用するグループ」に分けて比較しました。■心筋梗塞・脳卒中・心血管死はどうなった?平均約40か月追跡した結果、心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中を合わせた主要心血管イベントは、セマグルチド群 6.5% VS プラセボ群 8.0% でした。統計学的にはハザード比0.80。つまり、この研究条件では主要心血管イベントの相対リスクが約20%低かったことになります。ここはとても重要なところです。GLP-1関連薬について「体重が何%減った」という研究はこれまでにもありました。しかしSELECT試験では「心筋梗塞や脳卒中などの重大な出来事そのものが減った」ことが示されたのです。■「20%減った」の意味には注意が必要ですただし、数字の見方には注意が必要です。「20%減少」と聞くと「100人中20人が助かる」ような印象を持つかもしれません。しかし、そうではありません。実際の発生率は、8.0% → 6.5%です。差は1.5ポイントです。つまり「相対的には約20%減少した」と「絶対的には1.5ポイントの差だった」は同じ研究結果を別の角度から表現しています。薬の効果を考えるときには、この両方を見ることが大切です。■では「太っている人は全員ウゴービを使うべき」?SELECT試験の対象者は、すでに心血管疾患を持っている人たちでした。したがって、「肥満の人がウゴービを使えば、誰でも心筋梗塞を20%予防できる」と解釈することはできません。また、セマグルチドには吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状を中心とした副作用があります。SELECT試験でも、有害事象による治療中止はセマグルチド群でプラセボ群より多く認められました。どんな薬にもメリットとデメリットがあります。■それでも、この研究が重要な理由私がこの研究で特に重要だと思うのは、「肥満治療の目的とは何か?」という問いを改めて考えさせてくれたことです。「80kgを70kgにしたい」「昔着ていた服をもう一度着たい」もちろん、それもダイエットの立派な目標です。しかし医学として考えるなら「血圧を下げる」「血糖を改善する」「脂肪肝を改善する」「身体を動かしやすくする」「そして将来の心血管疾患を減らす」そのための一つの手段として「体重を減らす」と考えた方が、本質に近いのではないでしょうか。■「何kg痩せたい?」から「何を守りたい?」へ肥満治療を考えるとき、体重計の数字だけを見る必要はありません。✓ 血圧が上がってきた✓ 血糖値も高くなってきた✓ 中性脂肪が高い✓ 脂肪肝を指摘された✓ 家族に心筋梗塞や脳卒中が多いこうした背景も含めて考えることが大切です。当院では、単に「何kg痩せたいですか?」だけではなく、血圧、血糖、脂質、生活習慣などを確認しながら、食事・運動療法を基本として、必要に応じて薬物療法についてもご相談しています。肥満治療のゴールは、体重計に表示される数字そのものではありません。その先にある、「10年後、20年後の自分の身体を守ること」こそ、本当の目的なのではないでしょうか。いつの日も こころ楽しく すこやかに
健康診断などで、こんなことを言われた経験はありませんか?
確かに体重を減らせば、血圧や血糖値、中性脂肪などが改善することがあります。
「結局、痩せることで本当に病気は減るの?」
実は近年、この疑問に対する非常に興味深い研究結果が報告されています。
今回は「体重を減らす本当の意味」について、心臓や血管という視点から考えてみましょう。
たとえば、
✓ 血圧が上がる
✓ インスリンが効きにくくなる
✓ 血糖値が上昇する
✓ 中性脂肪が増える
✓ 慢性的な炎症が起こる
などです。
これらはいずれも、長い時間をかけて心臓や血管に負担をかける可能性があります。
つまり肥満を治療する本当の目的は「体重計の数字を減らすこと」ではなく「その先にある病気を防ぐこと」にあるはずです。
その一つが「セマグルチド」です。日本では、肥満症治療薬として「ウゴービ」という名前で使用されています。
これまでの臨床試験から、セマグルチドによって大きな体重減少が得られる場合があることが分かってきました。
「体重は減る。でも、それで本当に心筋梗塞や脳卒中まで減るの?」この疑問を真正面から調べたのが「SELECT試験」です。
■17,604人を調べたSELECT試験
対象となったのは、
・45歳以上
・BMI 27以上
・糖尿病ではない
・すでに心筋梗塞や脳卒中、末梢動脈疾患などの心血管疾患がある
という人たちです。
つまり、単に「少し太っている健康な人」を調べた研究ではありません。もともと心血管疾患のリスクが非常に高い人たちを対象にした研究です。
参加者を、「セマグルチド2.4mgを使用するグループ」と「プラセボを使用するグループ」に分けて比較しました。
■心筋梗塞・脳卒中・心血管死はどうなった?
平均約40か月追跡した結果、
心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中を合わせた主要心血管イベントは、
セマグルチド群 6.5% VS プラセボ群 8.0% でした。
しかしSELECT試験では「心筋梗塞や脳卒中などの重大な出来事そのものが減った」ことが示されたのです。
■「20%減った」の意味には注意が必要です
ただし、数字の見方には注意が必要です。
「20%減少」と聞くと「100人中20人が助かる」ような印象を持つかもしれません。
しかし、そうではありません。実際の発生率は、8.0% → 6.5%です。差は1.5ポイントです。
つまり「相対的には約20%減少した」と「絶対的には1.5ポイントの差だった」は同じ研究結果を別の角度から表現しています。薬の効果を考えるときには、この両方を見ることが大切です。
■では「太っている人は全員ウゴービを使うべき」?
SELECT試験の対象者は、すでに心血管疾患を持っている人たちでした。
したがって、「肥満の人がウゴービを使えば、誰でも心筋梗塞を20%予防できる」と解釈することはできません。
また、セマグルチドには吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状を中心とした副作用があります。
SELECT試験でも、有害事象による治療中止はセマグルチド群でプラセボ群より多く認められました。
どんな薬にもメリットとデメリットがあります。
■それでも、この研究が重要な理由
私がこの研究で特に重要だと思うのは、「肥満治療の目的とは何か?」という問いを改めて考えさせてくれたことです。
「80kgを70kgにしたい」「昔着ていた服をもう一度着たい」もちろん、それもダイエットの立派な目標です。
■「何kg痩せたい?」から「何を守りたい?」へ
✓ 血圧が上がってきた
✓ 血糖値も高くなってきた
✓ 中性脂肪が高い
✓ 脂肪肝を指摘された
✓ 家族に心筋梗塞や脳卒中が多い
こうした背景も含めて考えることが大切です。
当院では、単に「何kg痩せたいですか?」だけではなく、血圧、血糖、脂質、生活習慣などを確認しながら、食事・運動療法を基本として、必要に応じて薬物療法についてもご相談しています。
その先にある、「10年後、20年後の自分の身体を守ること」こそ、本当の目的なのではないでしょうか。
いつの日も こころ楽しく すこやかに