「今度こそ痩せよう!」そう決意して食事を減らし、運動を始める。3か月頑張って5kg減った。半年後には10kg減った。ところが……少しずつ体重が戻り始める。そして1~2年後には、ほとんど元通り。「また失敗した」「自分は意志が弱いんだ」そう思った経験はありませんか?でも、ちょっと待ってください。ダイエット後に体重が戻りやすいのは、本当に「意志が弱い」からなのでしょうか?実は人間の身体には、減った体重を元に戻そうとする生理的な仕組みがあります。今回は「リバウンド」を医学的に考えてみましょう。■人間の身体は「痩せ続ける」ようにはできていません人類の長い歴史の大部分では、「食べ物が多すぎて困る」よりも、「食べ物がなくて困る」ことの方が大きな問題でした。そのため私たちの身体には、エネルギー不足から身を守る仕組みが備わっています。食事を減らして体重が落ちてくると、「このままではエネルギーが足りなくなる」と身体が反応します。すると、食欲やエネルギー消費に関係するさまざまな生理的変化が起こります。■痩せると、むしろ「お腹が空く」?食欲は「我慢できるかどうか」だけで決まっているわけではありません。脳、とくに視床下部を中心として、レプチン、グレリン、GLP-1、GIP、インスリンなど、多くのホルモンや神経系が関係しています。そして体重を減らすと、食欲を抑える方向のシグナルが弱くなったり、空腹を感じる方向へ身体が変化したりすることが知られています。実際、減量後にも食欲に関係するホルモン変化が長期間残ることが報告されています。つまり、「痩せた後ほど食事を我慢するのが大変になる」ことがあるのです。しかも身体は「省エネモード」になります。もう一つ重要なのが、エネルギー消費です。体重が減れば、身体を維持するために必要なエネルギーも少なくなります。しかし、それだけではありません。減量後には、体格が小さくなったことから予想される以上にエネルギー消費が低下する場合があります。これを「代謝適応」などと呼びます。簡単にいえば、食事を減らす↓体重が減る↓食欲が強くなる+消費エネルギーが減る↓体重が戻りやすくなるということです。ダイエットとは、実はこの身体の防御反応との長期戦でもあるのです。■そこで登場した「食欲そのもの」に働く治療近年、この肥満治療の考え方を大きく変えたのが、GLP-1などの生理的な食欲調節機構を利用した薬です。GLP-1受容体作動薬のセマグルチドや、GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドなどです。これらの薬は、中枢神経系を含む複数の経路を介して食欲やエネルギー摂取に影響します。そのため患者さんから、「以前ほど食べたいと思わなくなった」「少ない量で満足できるようになった」という変化が聞かれることがあります。これは単純に、「薬で無理やり我慢させている」というより、人間が本来持っている食欲調節システムに作用していると考えた方がよいでしょう。では、薬を使えばリバウンドしないのか?ここが非常に重要です。答えは、「そうとは限りません」です。セマグルチド2.4mgを調べたSTEP 1試験では、大きな体重減少が認められました。しかし、その後薬を中止した人たちを追跡するとどうなったでしょうか?治療終了時には平均17.3%体重が減少していました。ところが薬を中止して1年後には、そのうち約3分の2に相当する体重が戻っていました。つまり、薬で一度体重を減らせば、その効果が永久に残るわけではないのです。■チルゼパチドでも同じことが分かっていますチルゼパチドを調べたSURMOUNT-4試験も興味深い研究です。まず参加者全員が36週間チルゼパチドを使用し、平均20.9%体重が減少しました。その後、「チルゼパチドを継続するグループ」と「プラセボへ切り替えるグループ」に分けました。すると52週間後、継続した人ではさらに体重が減少しました。一方、薬を中止したグループでは体重がかなり戻りました。これも、肥満治療は「一度痩せたら終了」という単純な治療ではないことを示しています。しかしこれは「一生薬を飲み続けなければならない」という意味でしょうか」?必ずしも、そこまで単純には言えません。どのくらいの期間薬物療法を続けるべきなのかは、肥満の程度、合併症、生活習慣、薬の副作用、費用などによって一人ひとり異なります。しかし少なくとも、「3か月薬を使って10kg痩せたら治療終了」という発想だけでは、肥満という病態を十分に理解しているとはいえません。重要なのは、薬を使用している期間を、「痩せるための時間」だけではなく、生活習慣を作り直す時間として利用することです。■減量中に「筋肉」を失わないことも大切体重を減らすとき、減ってほしいのは主に余分な脂肪です。しかし食事量だけを極端に減らすと、筋肉まで失う可能性があります。筋肉は身体を動かすためだけではなく、糖代謝にも重要な組織です。そのため減量中こそ、✓ 十分な蛋白質を摂る✓ 無理のない範囲で筋力トレーニングを行う✓ 歩く習慣を作る✓ 睡眠を整える✓ 食生活そのものを見直すといった取り組みが重要になります。薬物療法を行う場合も、ここは変わりません。■「ダイエットに失敗した」ではなく「維持する治療を考える」何度もダイエットして、そのたびにリバウンドしてきた方。それは、「あなたの意志が弱かった」だけではないかもしれません。人間の身体そのものが、減った体重を取り戻そうとする性質を持っているからです。だからこそ肥満治療では、「どうやって痩せるか」だけではなく、「どうやって維持するか」まで最初から考える必要があります。当院では、単に短期間で体重を落とすことだけではなく、食事、運動、筋肉量、睡眠なども含めて、長期的に体重と健康を管理する方法を一緒に考えていきます。必要な場合には薬物療法についても相談しますが、薬はあくまで治療を支える選択肢の一つです。目標は、「一番痩せていた日の体重」を作ることではありません。その体重を無理なく維持しながら、元気に動き、食事を楽しみ、健康に暮らしていける身体を作ること。それこそが、本当の意味での「ダイエット成功」なのではないでしょうか。いつの日も こころ楽しく すこやかに (参考文献)・N Engl J Med 2011;365:1597-1604・Diabetes Obes Metab. 2022 Aug;24(8):1553-1564.・JAMA. 2024 Jan 2;331(1):38-48.
そう決意して食事を減らし、運動を始める。
3か月頑張って5kg減った。半年後には10kg減った。ところが……
そして1~2年後には、ほとんど元通り。
「また失敗した」「自分は意志が弱いんだ」そう思った経験はありませんか?
ダイエット後に体重が戻りやすいのは、本当に「意志が弱い」からなのでしょうか?
実は人間の身体には、減った体重を元に戻そうとする生理的な仕組みがあります。今回は「リバウンド」を医学的に考えてみましょう。
そのため私たちの身体には、エネルギー不足から身を守る仕組みが備わっています。
すると、食欲やエネルギー消費に関係するさまざまな生理的変化が起こります。
■痩せると、むしろ「お腹が空く」?
脳、とくに視床下部を中心として、レプチン、グレリン、GLP-1、GIP、インスリンなど、多くのホルモンや神経系が関係しています。そして体重を減らすと、食欲を抑える方向のシグナルが弱くなったり、空腹を感じる方向へ身体が変化したりすることが知られています。
実際、減量後にも食欲に関係するホルモン変化が長期間残ることが報告されています。
つまり、「痩せた後ほど食事を我慢するのが大変になる」ことがあるのです。
しかも身体は「省エネモード」になります。
しかし、それだけではありません。減量後には、体格が小さくなったことから予想される以上にエネルギー消費が低下する場合があります。
これを「代謝適応」などと呼びます。簡単にいえば、
食事を減らす
↓
体重が減る
↓
食欲が強くなる
+
消費エネルギーが減る
↓
体重が戻りやすくなる
ということです。
ダイエットとは、実はこの身体の防御反応との長期戦でもあるのです。
■そこで登場した「食欲そのもの」に働く治療
近年、この肥満治療の考え方を大きく変えたのが、GLP-1などの生理的な食欲調節機構を利用した薬です。
GLP-1受容体作動薬のセマグルチドや、GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドなどです。
これらの薬は、中枢神経系を含む複数の経路を介して食欲やエネルギー摂取に影響します。
そのため患者さんから、
「以前ほど食べたいと思わなくなった」
「少ない量で満足できるようになった」
という変化が聞かれることがあります。
これは単純に、「薬で無理やり我慢させている」というより、人間が本来持っている食欲調節システムに作用していると考えた方がよいでしょう。
セマグルチド2.4mgを調べたSTEP 1試験では、大きな体重減少が認められました。しかし、その後薬を中止した人たちを追跡するとどうなったでしょうか?
治療終了時には平均17.3%体重が減少していました。
ところが薬を中止して1年後には、そのうち約3分の2に相当する体重が戻っていました。
つまり、薬で一度体重を減らせば、その効果が永久に残るわけではないのです。
■チルゼパチドでも同じことが分かっています
まず参加者全員が36週間チルゼパチドを使用し、平均20.9%体重が減少しました。
その後、「チルゼパチドを継続するグループ」と「プラセボへ切り替えるグループ」に分けました。
すると52週間後、継続した人ではさらに体重が減少しました。一方、薬を中止したグループでは体重がかなり戻りました。
しかしこれは「一生薬を飲み続けなければならない」という意味でしょうか」?
必ずしも、そこまで単純には言えません。どのくらいの期間薬物療法を続けるべきなのかは、肥満の程度、合併症、生活習慣、薬の副作用、費用などによって一人ひとり異なります。
しかし少なくとも、「3か月薬を使って10kg痩せたら治療終了」という発想だけでは、肥満という病態を十分に理解しているとはいえません。
重要なのは、薬を使用している期間を、「痩せるための時間」だけではなく、生活習慣を作り直す時間として利用することです。
■減量中に「筋肉」を失わないことも大切
しかし食事量だけを極端に減らすと、筋肉まで失う可能性があります。筋肉は身体を動かすためだけではなく、糖代謝にも重要な組織です。
そのため減量中こそ、
✓ 十分な蛋白質を摂る
✓ 無理のない範囲で筋力トレーニングを行う
✓ 歩く習慣を作る
✓ 睡眠を整える
✓ 食生活そのものを見直す
といった取り組みが重要になります。薬物療法を行う場合も、ここは変わりません。
■「ダイエットに失敗した」ではなく「維持する治療を考える」
何度もダイエットして、そのたびにリバウンドしてきた方。
それは、「あなたの意志が弱かった」だけではないかもしれません。
人間の身体そのものが、減った体重を取り戻そうとする性質を持っているからです。
だからこそ肥満治療では、「どうやって痩せるか」だけではなく、「どうやって維持するか」まで最初から考える必要があります。
当院では、単に短期間で体重を落とすことだけではなく、食事、運動、筋肉量、睡眠なども含めて、長期的に体重と健康を管理する方法を一緒に考えていきます。
必要な場合には薬物療法についても相談しますが、薬はあくまで治療を支える選択肢の一つです。
目標は、「一番痩せていた日の体重」を作ることではありません。
その体重を無理なく維持しながら、元気に動き、食事を楽しみ、健康に暮らしていける身体を作ること。
それこそが、本当の意味での「ダイエット成功」なのではないでしょうか。
いつの日も こころ楽しく すこやかに
. 2022 Aug;24(8):1553-1564.
. 2024 Jan 2;331(1):38-48.