夕方になると「靴下の跡がくっきり残っている」「靴がきつく感じる」「すねを指で押すと、へこんだまま戻らない」こんなことはありませんか?特に中高年になると「立ち仕事だから」「運動不足だから」「歳を取ればむくむものだよ」と、そのままにしてしまう方も少なくありません。もちろん、一日中立っていたことで脚がむくむこともあります。しかし、今までなかったむくみが出てきたのであれば、少し注意が必要です。今回は、総合内科と漢方医学の両方から「むくみ」について考えてみましょう。■そもそも「むくみ」とは?私たちの身体の大部分は水分です。血管の中を流れている水分の一部は組織へ移動し、また血管やリンパ管へ戻っていきます。このバランスが崩れ、皮下組織などに水分が過剰にたまった状態が、浮腫(むくみ)です。つまり、むくみは単純に「水を飲みすぎた」というだけの問題ではありません。身体の中で、水分をどのように運び、どのように戻しているのかという仕組みのどこかに変化が起きている可能性があります。■むくみ+息切れなら「心臓」も考える特に見逃したくないのが、慢性心不全です。心臓の働きに問題が生じると、血液の流れが滞り、身体に水分がたまりやすくなることがあります。そのため、✓ 足首やすねがむくむ✓ 体重が短期間で増える✓ 階段で息切れする✓ 以前より疲れやすい✓ 横になると息苦しい✓ 夜中に息苦しくて目が覚めるといった症状が組み合わさることがあります。心不全は、「突然胸が痛くなって倒れる」という病気とは限りません。「最近ちょっと疲れる」「少し歩くと息切れする」「夕方になると脚がむくむ」という小さな変化から見つかることもあります。■体重計が教えてくれることもあります心不全の患者さんでは、毎日の体重測定が重要になることがあります。なぜでしょう?脂肪が数日間で急に何kgも増えることは通常ありません。ところが身体に水分がたまれば、短期間でも体重が増えることがあります。ですから、「食べていないのに数日で体重が増えた」という変化は、身体に水分がたまっている可能性を考えるヒントになります。特に、体重増加+むくみ+息切れが一緒に起きている場合には注意が必要です。一方、「むくんでいるから心不全だ」というわけでもありません。むくみには、さまざまな原因があります。たとえば腎臓の病気。腎臓は体内の水分や塩分を調節しています。腎機能が低下すると、身体に水分がたまりやすくなることがあります。肝臓の病気や低栄養。血液中のアルブミンが低下すると、血管内に水分を保ちにくくなり、むくみが生じることがあります。静脈の問題。長時間立っている人では、脚の静脈に血液が滞ってむくむことがあります。そして意外に多いのが、薬によるむくみです。高血圧の治療などに使われる一部のカルシウム拮抗薬では、足首などに浮腫が生じることがあります。つまり、むくみを見たときには「なぜ水分がたまっているのか?」を考える必要があります。■「片脚だけ」のむくみは少し話が違います!心臓や腎臓など全身性の原因では、一般に両脚にむくみが出ることが多くなります。一方、「右脚だけ急に腫れた」「片脚だけ痛くて赤い」という場合には、深部静脈血栓症など別の病気を考える必要があります。血栓が肺へ飛ぶと肺塞栓症を起こす可能性もあります。突然の片脚の腫れや痛みに加えて、急な息苦しさや胸痛などがある場合には、通常の外来でゆっくり漢方を選んでいる状況ではありません。速やかな医学的評価が必要です。■漢方では「水」の偏りを考えますさて、ここから漢方の話です。漢方医学では身体を考えるとき、「気・血・水」という考え方を使うことがあります。その中の「水」は、身体を潤し、生命活動を支える大切なものです。しかし、その水が必要なところへうまく巡らず、偏ってしまった状態を「水滞(すいたい)・水毒(すいどく)」などと表現します。むくみだけでなく、身体が重い、めまい、頭重感、尿量の変化、天候による体調変化などを一緒に見ることもあります。つまり漢方でも、「むくみという症状だけ」を見るのではなく、身体のどこで水のバランスが崩れているのかを考えます。■むくみといえば五苓散?水分バランスの異常に使われる代表的な漢方薬の一つが、五苓散(ごれいさん)です。五苓散は水分の偏りがある状態で、そのバランスを整える目的で使われる処方と考えた方が漢方的には分かりやすいでしょう。むくみだけではなく、口渇、尿量の変化、頭痛、めまいなど、全体の状態を見ながら使用を考えます。ですから、「足がむくんでいる=五苓散」ではありません。■心臓と関係する「木防已湯」という処方このシリーズ第1回でも登場した木防已湯(もくぼういとう)という漢方薬があります。『金匱要略』に記載されている古い処方で、現代では心疾患などに伴う呼吸困難や浮腫を考える際に用いられることがあります。木防已湯を考える患者さんでは、単なる「脚のむくみ」だけではなく、息苦しさや胸部症状などを含めて全身を評価することが重要になります。非常に単純化すれば、五苓散は「水分バランスの偏り」を中心に考える処方。一方、木防已湯は、心肺系の症状を伴うような病態も視野に入れて考える処方という違いがあります。もちろん実際の漢方診療では、これだけで処方を決めるわけではありません。そして何より、心不全に木防已湯を使えば、標準的な心不全治療が不要になるわけではありません。■心不全は「水を抜けば終わり」ではありません心不全で身体に水分がたまっていれば、利尿薬などによる治療が必要になることがあります。しかし現在の心不全治療は、それだけではありません。患者さんの心機能や病態に応じて、生命予後や心不全による入院を改善することが確認された治療を組み合わせます。漢方薬は標準治療の代わりではなく、必要な治療を行ったうえで、患者さんに残っている症状や体質を考える際の選択肢の一つです。■こんな「むくみ」は一度相談してください✓ 靴下の跡が以前より深くなった✓ 靴が夕方になるときつい✓ すねを押すとへこむ✓ 数日で体重が増えた✓ むくみと一緒に息切れする✓ 夜、横になると息苦しい✓ 最近疲れやすくなったこんな変化があれば「歳だからむくむんだ」と決めつけず、一度原因を考えてみてもよいでしょう。■「水がたまっている」には理由があります当院では、むくみに対して単に「水を出す薬を使いましょう」と考えるだけではありません。心臓なのか。腎臓なのか。肝臓や栄養状態なのか。静脈なのか。薬の影響なのか。必要に応じて血液検査、尿検査、心電図、胸部X線などを組み合わせて原因を考えます。そして必要な標準治療を行ったうえで、症状や体質によって五苓散や木防已湯など漢方医学的な選択肢を検討することもあります。「夕方になると靴下の跡がつく」そんな小さな変化でも、昨日までとは違う身体からのメッセージかもしれません。「歳だから」で終わらせる前に、その理由を一度考えてみませんか?いつの日も こころ楽しく すこやかに
もちろん、一日中立っていたことで脚がむくむこともあります。
しかし、今までなかったむくみが出てきたのであれば、少し注意が必要です。
今回は、総合内科と漢方医学の両方から「むくみ」について考えてみましょう。
■そもそも「むくみ」とは?
血管の中を流れている水分の一部は組織へ移動し、また血管やリンパ管へ戻っていきます。
このバランスが崩れ、皮下組織などに水分が過剰にたまった状態が、浮腫(むくみ)です。
身体の中で、水分をどのように運び、どのように戻しているのかという仕組みのどこかに変化が起きている可能性があります。
■むくみ+息切れなら「心臓」も考える
心臓の働きに問題が生じると、血液の流れが滞り、身体に水分がたまりやすくなることがあります。
そのため、
✓ 足首やすねがむくむ
✓ 体重が短期間で増える
✓ 階段で息切れする
✓ 以前より疲れやすい
✓ 横になると息苦しい
✓ 夜中に息苦しくて目が覚める
といった症状が組み合わさることがあります。
心不全は、「突然胸が痛くなって倒れる」という病気とは限りません。
「最近ちょっと疲れる」「少し歩くと息切れする」「夕方になると脚がむくむ」という小さな変化から見つかることもあります。
■体重計が教えてくれることもあります
なぜでしょう?
脂肪が数日間で急に何kgも増えることは通常ありません。
ところが身体に水分がたまれば、短期間でも体重が増えることがあります。
ですから、「食べていないのに数日で体重が増えた」という変化は、身体に水分がたまっている可能性を考えるヒントになります。
一方、「むくんでいるから心不全だ」というわけでもありません。
むくみには、さまざまな原因があります。
たとえば腎臓の病気。
腎臓は体内の水分や塩分を調節しています。
腎機能が低下すると、身体に水分がたまりやすくなることがあります。
肝臓の病気や低栄養。
血液中のアルブミンが低下すると、血管内に水分を保ちにくくなり、むくみが生じることがあります。
静脈の問題。
長時間立っている人では、脚の静脈に血液が滞ってむくむことがあります。
そして意外に多いのが、
薬によるむくみです。高血圧の治療などに使われる一部のカルシウム拮抗薬では、足首などに浮腫が生じることがあります。
■「片脚だけ」のむくみは少し話が違います!
心臓や腎臓など全身性の原因では、一般に両脚にむくみが出ることが多くなります。
一方、「右脚だけ急に腫れた」「片脚だけ痛くて赤い」という場合には、深部静脈血栓症など別の病気を考える必要があります。
血栓が肺へ飛ぶと肺塞栓症を起こす可能性もあります。
突然の片脚の腫れや痛みに加えて、急な息苦しさや胸痛などがある場合には、通常の外来でゆっくり漢方を選んでいる状況ではありません。
速やかな医学的評価が必要です。
■漢方では「水」の偏りを考えます
漢方医学では身体を考えるとき、「気・血・水」という考え方を使うことがあります。
その中の「水」は、身体を潤し、生命活動を支える大切なものです。
しかし、その水が必要なところへうまく巡らず、偏ってしまった状態を「水滞(すいたい)・水毒(すいどく)」などと表現します。
つまり漢方でも、「むくみという症状だけ」を見るのではなく、身体のどこで水のバランスが崩れているのかを考えます。
五苓散は水分の偏りがある状態で、そのバランスを整える目的で使われる処方と考えた方が漢方的には分かりやすいでしょう。
むくみだけではなく、口渇、尿量の変化、頭痛、めまいなど、全体の状態を見ながら使用を考えます。
■心臓と関係する「木防已湯」という処方
非常に単純化すれば、五苓散は「水分バランスの偏り」を中心に考える処方。
一方、木防已湯は、心肺系の症状を伴うような病態も視野に入れて考える処方という違いがあります。
もちろん実際の漢方診療では、これだけで処方を決めるわけではありません。
そして何より、心不全に木防已湯を使えば、標準的な心不全治療が不要になるわけではありません。
■心不全は「水を抜けば終わり」ではありません
しかし現在の心不全治療は、それだけではありません。
患者さんの心機能や病態に応じて、生命予後や心不全による入院を改善することが確認された治療を組み合わせます。
漢方薬は標準治療の代わりではなく、必要な治療を行ったうえで、患者さんに残っている症状や体質を考える際の選択肢の一つです。
■こんな「むくみ」は一度相談してください
✓ 靴下の跡が以前より深くなった
✓ 靴が夕方になるときつい
✓ すねを押すとへこむ
✓ 数日で体重が増えた
✓ むくみと一緒に息切れする
✓ 夜、横になると息苦しい
✓ 最近疲れやすくなった
■「水がたまっている」には理由があります
心臓なのか。
腎臓なのか。
肝臓や栄養状態なのか。
静脈なのか。
薬の影響なのか。
必要に応じて血液検査、尿検査、心電図、胸部X線などを組み合わせて原因を考えます。
そして必要な標準治療を行ったうえで、症状や体質によって五苓散や木防已湯など漢方医学的な選択肢を検討することもあります。
そんな小さな変化でも、昨日までとは違う身体からのメッセージかもしれません。
「歳だから」で終わらせる前に、その理由を一度考えてみませんか?
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