【責任世代のメディカル・リスクマネジメント 第1回】仕事も家庭も充実している40代、50代。会社では責任ある立場を任され、家庭では子育てや親の介護など、さまざまな役割を担っている方も多いことでしょう。毎日の仕事に追われながらも、将来に備えて貯蓄や資産運用を考えたり、会社の経営状況を確認したりする。ところが、そんな方々でも、自分自身の健康については意外なほど無頓着だったりします。年に1回の健康診断で「血圧が少し高いですね」「血糖値が境界域です」「脂質異常があります」と指摘されても、特に体調が悪くなければ、そのままにしてしまうことはありませんか?しかし、その判断は本当に適切なのでしょうか。今回は、これからの人生を健康で充実したものにするための「メディカル・リスクマネジメント」について考えてみましょう。■ 健康診断は、あなたの身体の「決算書」会社を経営する方なら、毎年の決算書がどれほど重要かをご存じでしょう。売上が増えていても、借入金が増え続けていれば、将来の経営に不安が残ります。逆に、一時的に業績が悪化していても、その原因が明確で適切な対策が取られていれば、過度に悲観する必要はありません。実は、健康診断もこれによく似ています。血圧、血糖値、コレステロール、肝機能、腎機能などの検査結果は、いわば身体の経営状態を表す数字です。ただし、健康診断の数値は会社の決算書と違い、一つの数字だけで将来の健康を判断できるものではありません。大切なのは、それぞれの数値の意味と、過去からの変化、複数の危険因子の重なりを理解することです。■ 本当に怖いのは「小さなリスクの積み重ね」例えば、次のような方を想像してください。48歳の男性。仕事は忙しく、少しお腹が出てきました。健康診断では、血圧がやや高め。LDLコレステロールも基準値を超え、HbA1cも少しずつ上昇しています。しかし、自覚症状はまったくありません。本人は「まだ薬を飲むほどではないだろう」と考えています。ところが、医学的には注意が必要です。高血圧、脂質異常症、糖代謝異常、喫煙などは、それぞれ動脈硬化性疾患の危険因子です。複数の危険因子を持つ場合には、それらを総合して将来の心筋梗塞や脳卒中のリスクを評価する必要があります。もちろん、数値が少し悪いからといって、すぐに重大な病気になるわけではありません。反対に、自覚症状がないことも、将来の安全を保証してくれません。「今は元気だから大丈夫」と「将来のリスクが低い」は、同じ意味ではないのです。■ 40代から確認したい5つの健康指標では、責任世代は何を確認すればよいのでしょうか。まず重要なのは、血圧です。診察室で測定する血圧に加え、家庭血圧を記録することで、普段の血圧状態をより適切に評価できます。次に、LDLコレステロールなどの脂質です。コレステロールの管理目標は、年齢、喫煙、糖尿病、腎機能、心血管疾患の既往などによって異なります。3つ目は血糖値とHbA1cです。糖尿病と診断される前から、糖代謝の異常が進行している場合があります。4つ目は腎機能です。血液検査のeGFRだけでなく、尿蛋白などの情報も重要です。腎臓の異常は、自覚症状が乏しい段階で見つかることがあります。そして5つ目は、体重・腹囲と生活習慣です。内臓脂肪、運動不足、睡眠不足、喫煙、飲酒などは、複数の生活習慣病と関係しています。これらを別々に見るのではなく、身体全体のリスクとして評価することが大切です。■ 病気になる前に治療するのは、薬の飲み過ぎ?「病気でもないのに治療を受ける必要があるのか?」そう思われる方もいらっしゃるでしょう。もちろん、検査値が少し悪いからといって、すべての方に薬が必要になるわけではありません。食事、運動、睡眠、禁煙などの生活習慣を改善することで、リスクを低下させられる場合もあります。一方で、危険因子の程度や組み合わせによっては、生活習慣の改善だけでは十分ではなく、薬物療法が必要になることもあります。大切なのは、薬を使うか使わないかという二者択一ではありません。将来の病気を防ぐために、現在の自分にはどの程度の介入が必要なのか。この判断こそ、メディカル・リスクマネジメントの基本です。■ 「健康への投資」は、高価な治療を受けることではない予防医療という言葉から、特別な検査や高額な自由診療を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、健康への投資は必ずしも費用のかかるものではありません。毎日の血圧測定、食事内容の見直し、定期的な運動、禁煙、十分な睡眠。こうした基本的な取り組みが、将来の健康を守る重要な手段になります。また、すでに高血圧症や糖尿病、脂質異常症などを発症している場合には、適切な保険診療による管理が重要です。必要な検査や治療を、適切な時期に受けること。それこそが、合理的な健康投資といえるでしょう。■ 責任世代こそ、自分の健康を後回しにしない会社や家族のために働くことは、もちろん大切です。しかし、自分自身の健康を犠牲にしてまで頑張り続けることが、長い目で見て最善の選択とは限りません。仕事を楽しむこと、旅行に出かけること、好きな食事を味わうこと、家族と時間を過ごすこと。そのすべてを支えているのが健康です。会社の経営状態を定期的に確認するように、自分の身体の状態も定期的に確認してみませんか。まずは、昨年と今年の健康診断結果を並べてみてください。そこには、これからの健康を守るための大切なヒントが隠れているかもしれません。健康は、人生を楽しむための大切な資産です。そして、その資産を守るための第一歩は、自分自身の健康状態を正しく理解することなのです。次回は、肥満症治療薬を例に、「最も体重が減る治療が、必ずしも自分に最適とは限らない」というテーマを考えます。いつの日も こころ楽しく すこやかに ご予約はコチラ
仕事も家庭も充実している40代、50代。
会社では責任ある立場を任され、家庭では子育てや親の介護など、さまざまな役割を担っている方も多いことでしょう。
毎日の仕事に追われながらも、将来に備えて貯蓄や資産運用を考えたり、会社の経営状況を確認したりする。
ところが、そんな方々でも、自分自身の健康については意外なほど無頓着だったりします。
年に1回の健康診断で「血圧が少し高いですね」「血糖値が境界域です」「脂質異常があります」と指摘されても、特に体調が悪くなければ、そのままにしてしまうことはありませんか?
しかし、その判断は本当に適切なのでしょうか。
今回は、これからの人生を健康で充実したものにするための「メディカル・リスクマネジメント」について考えてみましょう。
■ 健康診断は、あなたの身体の「決算書」
逆に、一時的に業績が悪化していても、その原因が明確で適切な対策が取られていれば、過度に悲観する必要はありません。
血圧、血糖値、コレステロール、肝機能、腎機能などの検査結果は、いわば身体の経営状態を表す数字です。
ただし、健康診断の数値は会社の決算書と違い、一つの数字だけで将来の健康を判断できるものではありません。
大切なのは、それぞれの数値の意味と、過去からの変化、複数の危険因子の重なりを理解することです。
■ 本当に怖いのは「小さなリスクの積み重ね」
48歳の男性。仕事は忙しく、少しお腹が出てきました。
健康診断では、血圧がやや高め。LDLコレステロールも基準値を超え、HbA1cも少しずつ上昇しています。
しかし、自覚症状はまったくありません。
本人は「まだ薬を飲むほどではないだろう」と考えています。
ところが、医学的には注意が必要です。
高血圧、脂質異常症、糖代謝異常、喫煙などは、それぞれ動脈硬化性疾患の危険因子です。複数の危険因子を持つ場合には、それらを総合して将来の心筋梗塞や脳卒中のリスクを評価する必要があります。
もちろん、数値が少し悪いからといって、すぐに重大な病気になるわけではありません。
反対に、自覚症状がないことも、将来の安全を保証してくれません。
「今は元気だから大丈夫」と「将来のリスクが低い」は、同じ意味ではないのです。
まず重要なのは、血圧です。
診察室で測定する血圧に加え、家庭血圧を記録することで、普段の血圧状態をより適切に評価できます。
次に、LDLコレステロールなどの脂質です。
コレステロールの管理目標は、年齢、喫煙、糖尿病、腎機能、心血管疾患の既往などによって異なります。
3つ目は血糖値とHbA1cです。
糖尿病と診断される前から、糖代謝の異常が進行している場合があります。
4つ目は腎機能です。
血液検査のeGFRだけでなく、尿蛋白などの情報も重要です。腎臓の異常は、自覚症状が乏しい段階で見つかることがあります。
そして5つ目は、体重・腹囲と生活習慣です。
内臓脂肪、運動不足、睡眠不足、喫煙、飲酒などは、複数の生活習慣病と関係しています。
これらを別々に見るのではなく、身体全体のリスクとして評価することが大切です。
■ 病気になる前に治療するのは、薬の飲み過ぎ?
もちろん、検査値が少し悪いからといって、すべての方に薬が必要になるわけではありません。
食事、運動、睡眠、禁煙などの生活習慣を改善することで、リスクを低下させられる場合もあります。
一方で、危険因子の程度や組み合わせによっては、生活習慣の改善だけでは十分ではなく、薬物療法が必要になることもあります。
大切なのは、薬を使うか使わないかという二者択一ではありません。
将来の病気を防ぐために、現在の自分にはどの程度の介入が必要なのか。
この判断こそ、メディカル・リスクマネジメントの基本です。
■ 「健康への投資」は、高価な治療を受けることではない
しかし、健康への投資は必ずしも費用のかかるものではありません。
毎日の血圧測定、食事内容の見直し、定期的な運動、禁煙、十分な睡眠。
こうした基本的な取り組みが、将来の健康を守る重要な手段になります。
また、すでに高血圧症や糖尿病、脂質異常症などを発症している場合には、適切な保険診療による管理が重要です。
必要な検査や治療を、適切な時期に受けること。
それこそが、合理的な健康投資といえるでしょう。
しかし、自分自身の健康を犠牲にしてまで頑張り続けることが、長い目で見て最善の選択とは限りません。
そのすべてを支えているのが健康です。
まずは、昨年と今年の健康診断結果を並べてみてください。
そこには、これからの健康を守るための大切なヒントが隠れているかもしれません。
そして、その資産を守るための第一歩は、自分自身の健康状態を正しく理解することなのです。
次回は、肥満症治療薬を例に、「最も体重が減る治療が、必ずしも自分に最適とは限らない」というテーマを考えます。
いつの日も こころ楽しく すこやかに